抄録
【目 的】 包丁技能は調理操作の基本である。昨今では、各種のスライーサーやピーラー、フードプロセッサー等も利用されてはいるが、これらの器具の用途が限定されるのに対し、包丁は一本で「きざむ、切る、割る、むく、そぐ」などのいろいろな作業をこなすことができる。「きざみ」は包丁技能の基本とされている(田中恒男、包丁入門、1993、柴田書店)。「きざみ」の特徴を、被切断物を押さえる指骨を包丁の刃に押しあてたまま、包丁の動きにあわせて滑らせながら移動させる点にあるとすると、小口切り、薄切り、千切りは、包丁と被切断物を押させる手の動きから「きざみ」の仲間に入る。包丁作業の未経験者や未熟者には、手指を包丁の刃に密着させることが恐怖感を誘発させ、この段階を克服することが技能の習熟につながる。包丁技能を安全に習得するには、使用する包丁の大きさは元より、周辺環境の整備が肝要である。小学校家庭科教科書の包丁の使い方の項には、きゅうりの薄切りやキャベツの千切り等が従来より掲載されてきたが、これらの野菜の大きさの是非が技能習得の面から問われたことはない。そこで、本研究においては、練習に用いる被切断物の大きさについて、その高さと幅を検討した。
【方 法】 被験者は20歳代学生28名(男10名、女18名)である。文化包丁(全長30.5cm、刃渡り17.7cm、最大刃幅4.5cm、重量165g)を使用し、被切断物には5%濃度の粉寒天ゲル(幅2.5又は5cm、高さ2又は4cm、長さ15cm以上の角柱)を用いた。包丁の持ち方は握り型とし、2mm程度の薄切りを指示した。作業台は、身長150cm以下は高さ 70cm、150~165cmは高さ 80m、165cm以上は高さ 90 cmとした。被切断物の高さは文化包丁の刃幅を目安に刃幅の全幅に相当する 4cmと、半幅に相当する 2cmとした。被切断物の幅はきゆうりの輪切りの場合を想定した2.5cmとキャベツの千切りの場合を想定した5cmとした。測定項目は被切断物10cmを切断した際の所要時間・切断枚数および破損枚数・試料の厚さ(初め・中・終わりの各5校ずつの合計15枚の平均値)と、包丁作業時の加速度、作業中の非切断時の包丁の揺れである。加速度と揺れは、加速度センサー PiezoBEAM3軸加速度計(KISTLER 社)を包丁に取り付け、包丁の左右の動き(被切断物を切り進む動き)、前後の動き(包丁の押し引きの動き)、上下の動きの波形を波形解析処理装置 MacLab(D K H社)を用いて解析し、先にあげた分析項目の所要時間、切断校数、厚さの結果より熟練者と非熟練者を選別して分析対象とした。
【結 果】 切断の所要時間について二元配置分析を行った結果、被切断物の高さには1%の有意水準で、幅には5%の有意水準で差が認められた。試料の厚さについて同様の分析を行った結果、高さ、幅ともに1%の有意水準で差が認められた。切断枚数については、分析の結果、差は認められなかったが、破損枚数については1%の有意水準で高さに差が認められた。熟練者と非熟練者の包丁作業時の加速度および非切断時の包丁の揺れについては、熟練者の方が加速度が大きく揺れが少なかった。切断しやすい被切断物は熟練者、非熟練者に関係なく高さの低い被切断物であった。 以上の結果より、迅速かつ正確に「きざみ」を行う際の被切断物の大きさには、幅よりも高さが影響し、切断しやすい被切断物の高さは、包丁の刃幅の半分程度であることがわかった。但し、高さが高いものでも幅を狭くすることにより切断しやすい傾向にあった。「きざみ」練習を行う際の被切断物には、高さに配慮する必要がある。