抄録
研究の背景・目的 今日、日本では生活習慣病の増加が深刻な問題となっており、健康を増進し発病を予防する「一次予防」が重視され、一人一人が栄養バランスのとれた食生活を実践する力を身につけることが求められている。そのためには、家庭科「食物」領域の学習(以下、食物学習とする)を通して、児童・生徒が食物と栄養に関する知識を互いに関連づけて理解し、食事の栄養バランスを自分で評価することのできる力を育成することが重要と考えられる。 そこで本研究は、高校生の食物と栄養に関する知識理解について、その実態、食物学習前後の変化、相互関連性を明らかにし、食物学習において食事の栄養バランスを評価する力を育成するために効果的な方法について検討した。
方法 調査対象は東京都及び神奈川県の公立学校に通う高校生男女計420名であり、2000年4月から11月まで実施された食物学習の導入時と終了後に以下の調査を行った。1.食物と栄養に関する基礎的知識 質問紙法により5大栄養素の働き、食品の栄養的特質、栄養に関する用語、栄養所要量等について尋ね、回答は主に選択式とした。2.食物と栄養を関連づけて理解する力 概念地図法による調査を行った。栄養素、食品群、食品、料理に関する9個のラベルを生徒に示し、関係があると思われるラベル同士を線で結び、その関係を説明する文を線の横に記すこと、9個のラベル以外に自由にラベルを追加してよいこと等を説明した後、各自概念地図の作成を行った。3.献立の栄養評価力 生徒に2種類の献立を示し、栄養バランスの良し悪しを○×で回答させ、×の場合にはその理由を自由に記述するよう指示した。 統計的な有意差の検定には統計ソフト SPSSを用い、有意水準を5%とした。
結果 繰り返しのある分散分析の結果、男女いずれも学習後に食物と栄養に関する基礎的知識の総合点の平均値は有意に向上していた。作成された概念地図の階層性に着目して分類を行った結果、栄養素、食品群、食品、料理を関連づけて理解している生徒の数は学習後に増加していた。献立の栄養評価力については、自由記述の内容を分類した結果、献立を見て野菜の不足を指摘した生徒が最も多く、牛乳・乳製品・海草・小魚の不足を指摘した生徒は少なかった。 食物と栄養に関する知識理解の相互関連性を検討するため、分散分析を行った結果、栄養素、食品群、食品、料理を関連づけて理解していない群は、栄養素、食品群、食品、料理を関連づけて理解している群に比べ、食物と栄養に関する基礎的知識得点の平均値が有意に低かった。また女子においては、学習後の献立の栄養評価力にも有意な群差がみられ、栄養素、食品群、食品、料理を関連づけて理解していない群は、栄養素、食品群、食品、料理を関連づけて理解している群に比べ、献立の栄養評価力得点の平均値が低かった。 以上のことから、食事の栄養バランスを評価する力の育成には、食物と栄養に関する基礎的な知識の定着を図り、栄養素、食品群、食品、料理に関する知識を互いに関連づけて理解する力を高めることが重要と考えられる。さらに、生徒の感想から、食物と栄養に関する知識を互いに関連づけて理解するための学習ツールとしての概念地図法の有効性が示唆された。