抄録
1.目的「総合的な学習の時間」の本格実施にあたって、総合的な学びを展開する家庭科が「総合的な学習の時間」にどのように関わるのか、その中で何ができるのかできないのか、またそうした場合の本来の家庭科のあり方をどうするかといった「総合的な学習の時間」と家庭科のかかわりについて家庭科教育学界では議論されてきた。特に「総合的な学習の時間」で育成する「生きる力」と家庭科で育成する生活力との異同や、家庭科という教科あるいは教師の「総合的な学習の時間」との関わり、その関係を整理することは、家庭科に課された大きな課題である。そしてこのことは、家庭科の独自性を明らかにして、明確な目的をもった今後の家庭科を創り出していくための課題でもある。本研究では、「総合的な学習の時間」と「生きる力」の家庭科の視点から「生きる力」を生活力、生活自立能力との関わりで明らかにし、さらにそれを育成するための「総合的な学習の時間」や家庭科のあり方や関わりについて追求することを目的とした。
2.方法 2000年に行った総合的な学習の時間に関する調査に協力した中学校、研究開発指定校、東京都や市の教育委員会の推進校や奨励校の中から、「生きる力」の育成をテーマとしている学校及び家庭科を中心に行っていると思われる学校を選出し、訪問の許可を得た6校を選出し、合計8校の中学校の事例研究を調査し分析して、「総合的な学習の時間」や家庭科のあり方や関わりについて追求した。学校訪問をした期間は10月から11月である。観察者(筆者)は、授業参観をし、授業観察記録を行った。校長、総合的な学習の担当者、また家庭科教員や生徒とからの聞き取りも行なった。
3. 結果と考察
?「生きる力」をめぐる諸議論
「生きる力」の捉えられ方を整理した結果明らかになったことは「生きる力」は戦後民主化の教育の中で今日まで一貫して追求されてきたものであり新しい提言ではなく、時代の変化とともに「生きる力」の捉え方はかわってきたもので必ずしも一様ではなかたものである。家庭科や家政学領域で対象としている「生きる力」は生活自立能力や「生活力」と述べることが多く、また「生きる力」の前提に自立概念がふくまれており、自立には精神的自立、経済的自立、生活自立の3つに大別することができ、それぞれの自立の内容は「生きる力」と同じくその時代背景の課題が反映したものとなっていた。家庭科の学習指指導要領、教科書では食物、被服、住居の具体的な技術や知識に重点を置いた能力だけではなく、自分や家族の機能を理解し、自分の生涯を主体的に営む能力や子どもを産み育てる能力、高齢者介護の能力、消費生活の経営能力を重視し、さらに家庭生活の多様化外部化によって地域社会に広がりを持っている中で、地域社会の中での生活の経営能力も「生活の自立」能力(生きる力)として捉えられているということが明らかになった。
?中学校「総合的な学習の時間」の事例研究
各学校の「総合的な学習の時間」であげられた「生きる力」の捉え方を概観すると、それは「学び方を学習すること」「生徒の学力の向上にある」、「自己の生き方を問うこと」と「社会に対応できること」など、「総合的な学習の時間」のねらいにそった「生きる力」のとらえ方は様々であり、逆に言えば「総合的な学習の時間」イコール「生きる力」を育成する時間であり、そこで展開される学習内容が全てが「生きる力」とされる傾向にあることがわかった。家庭科が中心となった「総合的な学習の時間」では、「生きる力」は必ずしも前面的に出されたものではなかったが、これらの学習活動は生徒の生活実態に迫った内容になっており、身近な生活のから問題をとらえ、総合的視野に立って解決策を思考して、生活に戻すという一連の学習課程に家庭科の特徴が見られた。このことから、その内容は「生きる力」を中心に取り組んでいる学校と同様に「生きる力」と関り深い内容が扱われていたといえる。