抄録
目的
「家族は食の分配集団」(石毛直道1982年)と言われ,ホームドラマや挿絵でよく目にする家族団らんの食卓風景は健全な家族の象徴となっている。しかし,近代日本における日常の家族の食事は,銘々膳を用いた個人的な営みであった。戸主や時間のあるものから行われ,会話が禁止される食事から,家族の会話のある食事への転換は,第2次世界大戦後に見られる。それから半世紀を経た現在は,単独世帯の増加,家族生活の個別化により家族の食事が減少し,孤食の時代といわれている。『心のノート』などのように,食卓での家族団らんを強く推奨する例がある一方,家庭科教科書において70年代から80年代にかけて強調されていた食卓での家族団らんは,現行では大きく取り上げられなくなっている。さらに,「かつて団らんがあったかのごとく思いこもうとする社会心理,あるいは,これからも団らんし続けなければならぬと思いこむ強迫神経症的な社会心理」を「団らん信仰」を呼び,食卓での家族団らんを批判する声もある。家制度にかわって家族の絆を結ぶものとして登場した食卓での家族の団らんは,なくなってしまうのか。それともこれからも家族をつなぎとめるものとして,残していくべきなのか。
本報告では,家庭科教育学会全国調査のデータを用いて,1)家族の食事の共有が子どもの生活態度の及ぼす影響,2)家族の食事の共有に影響を及ぼす要因について明らかにし,今後の食卓での家族団らんに関する教育のあり方についての示唆を得ることを目的とする。
方法 日本家庭科教育学会全国調査「家庭生活についての調査」(2001)を用いて2次分析を行った。全国の小学校4・6年生,中学校2年生,高等学校2年生合計11,142名すべてを分析対象とした。
結果 分析により得られた知見は以下の3点にまとめることが出来る。
1)家族の食事の共有と人間関係の能力との関連を知るために,「朝食を誰と食べるか」「夕食を誰と食べるか」を独立変数に,人間関係関連4項目を従属変数として一元配置分散分析を行った結果,すべてに有意差が見られ,いずれも家族と一緒に食事をしているほうが,人間関係に関する実践の頻度が高かった。
2) 「朝食を誰と食べるか」「夕食を誰と食べるか」を独立変数に,生活態度として,家事頻度,「もっと上手にできるようになりたいこと」,「もっとすすんでするようにしたいこと」,「帰ったときの気持」,「家庭生活を楽しくするための一番大切なこと」,家庭科の学習,および「これからの生活でどのくらい大切にしたいか」を従属変数に,χ二乗検定法によるクロス検定集計を行った結果,いずれも有意差がみられ,現在の生活態度はおおむね家族と一緒に食べている子どものほうが積極的な態度を示していた。
3)どのような家族・どのような子どもが食事を家族と一緒に食べているのか明らかにするために,「家族みんなと一緒に食べる」を1,それ以外を0として2項ロジスティック分析を行った結果,低学年・男子・朝出かけるまでの時間が長い・母が食事作りをよくする・父が食事作りをよくする・夕食を家族みんなと一緒に食べるこどもが朝食を家族みんなと一緒に食べていた。また,女子・家族の人数が多い・母が食事作りをよくする・父が食事作りをよくする・父の仕事の拘束程度が低い・朝食を家族みんなと一緒に食べる子どもが夕食を家族みんなと一緒に食べていた。家族みんなで食事を食べる子どもは,人間関係に関する家事の頻度が高いこと,また,積極的な生活態度をとっていること,さらに,朝食を一緒に食べる家族は,夕食も一緒に食べていること,父親・母親が食事作りをよくする家族が,家族一緒に食事をしていることが明らかとなった。食事を大切にする意識をもつことにより,食事以外の生活も積極的な態度で臨む結果につながっていると考える。この結果を見る限り,食は家族をつなぎとめるために有効に働く可能性があるといえる。