抄録
【目的】近年,地球規模で環境に配慮した行動の必要性が示されている。特に先進国において,事業者はもちろん生活者が環境負荷の少ない行動に対して意識を高め,行動変容を進める方策について注目されている。この視点は,これまで家庭科学習において基本的な学習目標の一つとして位置付けられた合理的・能率的・科学的な視点から生活事象や生活財を捉えなおす力をつけることと密接に関わっている。衣生活の分野において,衣類という生活に不可欠な財を管理運用し,個々の生活に有効に活用していく力は,環境に配慮した実践的な行動力と関係が深いものと考える。家庭生活においても,大量消費が美徳であった時代は反省され,いずれの資源にも限りがあることを生活者が意識することの重要性が指摘されている。また,簡便さや迅速さによって失われがちな安全性や恒久性を今一度確認し,生活者の消費のあり方が問われている。衣生活分野では,小中高校のいずれの段階においても,手入れの領域が重要な指導内容となり,見直されつつある。手入れの領域では小中高を通してその必要性や衣服材料の特性に応じた手入れの方法を学ぶことに重点がおかれている。ところで,教師の指導力要素には様々なものが存在し,子どもとの関係において,具現化される。より豊かな学びを実感するためには教師として,指導内容についての広く深い理解が必須であるが,子どもの指導内容に対する意識や認識の実態を詳細に把握することも,効果的な指導のあり方を検討する上で不可欠である。そこで,本研究では,手入れ指導の改善を目的として,子どもの衣服材料に関する認識の実態を明らかにし,基礎的資料を得る。これまでに,家庭での洗濯(お手伝い)・子どもの着用や購入実態等についての報告は多くみられるが,手入れ学習の立場より衣服材料の認識について報告されたものは十分とはいえない。
【方法】小学生の認識については,長野市内の公立小学校1校の第5学年男女,1クラス33名を対象とし配票調査を行なった。調査は2000年冬季に実施し,主な調査項目は天然繊維・化学繊維の名称についてであった。中学生の認識については,長野市内の公立中学校,大中小規模校各1校計3校の第1学年男女,365名を対象とし配票調査を行なった。調査は2000年秋季に実施し,主な調査項目はドライクリーニングに適する繊維についてであった。高校生の認識については,長野県内の公立高校普通科3校および私立高校普通科1校計4校の第2学年男女,203名を対象とし配票調査を行なった。調査は2001年夏季に実施し,主な調査項目は繊維の分類,ドライクリーニングに適する繊維,水に対する繊維の収縮特性についてであった。
【結果】小学生の場合,「天然繊維」の表現について,聞いたことがあると回答した児童は51.5%であり,「化学繊維」は100%であった。このことから,本調査の範囲では小学生児童にとっては「化学繊維」よりも「天然繊維」の表現を聞く機会の少ない背景がうかがえた。しかし,そのうち数種類の代表的な繊維名について知っていると回答した結果をみると,綿や毛などの天然繊維については94.1%が知っていると回答したのに対して,ナイロンやポリエステルなどの合成繊維については71.7%であった。本調査の範囲では,児童は天然繊維に属する繊維はなんとなく知っているような意識を有しているが,合成繊維に属する繊維は綿や毛に比べてあまり知らないと意識されている傾向が伺えた。中学生の場合,ドライクリーニングに適する繊維について,毛や絹と正しく回答した生徒は49.3%であり,化学繊維と回答したものは27.1%,綿や麻と回答したものは17.6%と誤って回答した生徒が全体の半数近くもいた。このことから,本調査の範囲では,約半数の生徒は誤った理解をしている傾向がうかがえた。高校生の場合,ドライクリーニングに適する繊維について,毛や絹と回答した生徒は54.7%であり,化学繊維は28.6%,綿や麻は13.3%であった。このことから,本調査の範囲では約半数以上の生徒は正しく認識しており,中学生に比べるとやや正答率は高まるものの,約半数の生徒は誤った理解をしている傾向がうかがえた。中学生に比べて化学繊維と誤答をする生徒の割合が高校生の方が高いのは,ドライクリーニング溶剤に対する認識が高まり,化学繊維との類似性からの誤解も一因として考えられる。繊維分類に関する認識について,その正答率はポリエステル・化学繊維96.4%,綿・植物繊維93.4%,毛・動物繊維89.3%の順となった。また,毛を植物繊維と誤答する例が全体の約1割であることが明らかとなった。また,水に対する収縮特性について,ポリエステルは小で,毛は大ということは多くの生徒に理解されているが,綿については50.8%の生徒は収縮性が小さく,ちぢみにくい繊維であると誤った理解している実態が明らかとなった。