抄録
【目的】
中学校「技術・家庭科」の学習指導要領では、「B 家族と家庭生活」においては「幼児の心身の発達を考え、幼児との触れ合いやかかわり方の工夫ができること」が内容としてあげられている。これに基づいて教育現場では様々な実践が行われているが、ふれあいの効果を十全に発揮する授業構成については発展途上である。広島大学附属三原中学校では、一人の中学生と一人の幼稚園児をペアとして、年間数回にわたるふれあい体験学習を実施する方式をとってきた。平成16年度からは、それまでのふれあい体験学習をより効果的なものに改善することを目標として、宮原和子氏らが提唱する「ことばによる応答理論」を授業の中に導入して、生徒と幼児の言語コミュニケーションの深化向上を図る試みを行っている。
「ことばによる応答」とは、子どもの知的好奇心の発達を重視した「応答的保育」の中で考えられている応答性の一つである。その基本的な考え方は、保育者と幼児との言語コミュニケーションが「発問」、「受容」、「過程」という3つのプロセスから成り立っており、保育者がこの枠組みに沿って意識的に言語を使用することによって、知的好奇心をもった子どもの育成が可能になるというものである。
それでは、幼児とのふれあい体験学習に「ことばによる応答理論」を導入した場合、生徒にどのような良好な変容をもたらすのであろうか。広島大学附属三原中学校での平成16、17年度のふれあい体験学習および平成17年度に実施した東広島市黒瀬中学校での実験的な授業を通しての生徒の変容を知り、この疑問に答えることが本研究の目的である。
【方法】
(1)広島大学附属三原中学校では、次のように学習を計画・実行し、各種調査により効果を測定した。1)6月上旬に自分の成長を支えてくれている家族や他者との関係に気づかせた。2)下旬に附属幼稚園に出向き、ペア幼児(4才児)と約1時間の交流をもった。3)9月の附属三原学園の運動会では、合同種目を生徒と園児が一緒に楽しみ親交を深めた。4)その後ペア幼児に読み聞かせをするための絵本の製作に入り、完成した12月下旬には読み聞かせの指導とともに、幼児とのことばの応答の方法について学習させた。後者については、宮原和子著『知的好奇心を育てる応答的保育』(2004年)およびこれに対応したビデオを使用した。その後、グループワークによる劇化によって、「ことばによる応答」とは、「問いかける(発問)・受けとめる(受容)・みちすじをしめす(過程)」という言語のコミュニケーション過程であることを知らせて、幼児との交流に生かすように示唆した。5)翌年の1月中旬には、生徒がペア幼児に自作絵本の読み聞かせを行った。
(2)黒瀬中学校では、1時間の「ことばによる応答」の授業を実施し、シナリオとして書いた幼児との会話の内容が、事前と事後では量・質的にどのように変化したかを測定した。
【結果】
1.三原中学校のほぼ全員の生徒が、「発問・受容・過程」の意味が分かったと答えており、言語コミュニケーションの仕組みを理解させる手段として、「ことばによる応答理論」の導入は適していることが明らかになった。さらに園児と話すとき実際に「応答」を使ったと答えた生徒は8割を越えており、現実場面で使用できることが示された。
2.黒瀬中学校の実験授業から、僅か1時間で「ことばの応答」を指導することが可能であることが実証された。生徒のシナリオに記された発問・受容・過程に相当する会話は、指導後に量的・質的に向上した。以上のように、「応答」理論の導入によって、効果的なふれあい体験学習の構築が可能になることが示された。