抄録
【目的】
食生活は個人の生活習慣や文化的・社会的な環境などさまざまな要因が影響して営まれており、食生活で何を重視し、どうありたいかという考え(食生活観)も多様である。しかし今日のように、いつでも好きなものが食べられるという豊かさの中では、一人ひとりが主体的に食生活とかかわり、望ましい食行動・食環境のあり方を考えていくことが求められる。
高校生になると、自分の意思で身の回りのことを決定する機会が多くなり、食生活においても自分の価値観に基づいて、食物を選択したり、飲食したりするようになる。自分たちの食生活が、食品の生産・流通・販売などの社会・経済とどのように関わっているのかを理解することで、価値観を広げ、吟味することができるのではないかと考えた。
本研究では高等学校家庭科において、食生活と社会とのかかわりを考慮した授業を構想・実践し、高校生の食生活観を吟味・醸成することをねらいとした授業のあり方について考察した。
【方法】
(1)高校生の食生活に対する意識の実態とその課題
高校生の食生活に関する実態調査および研究論文をもとに、現代の高校生の食生活や健康に対する意識の実態を明らかにし、主体的に食生活を送るための課題について検討した。
(2)授業の実践と考察
(1)をふまえて高等学校家庭科における食生活と社会とのかかわりを考慮した授業を構想し、東京都立A高等学校において選択科目フードデザインを受講する3年生13名を対象として、2009年9月に3回(計6時間)扱いで実施した。1回目は食品廃棄に関する新聞記事と食品広告を題材とした。表面的な印象に惑わされず、批判的に情報を読み取ることの重要性に気づき、それを実践することができること、また、問題の解決について販売者の立場と消費者の立場を理解して考えることができることを目標とした。2・3回目では生徒たちがサンドイッチ屋となり、商品提案、広告作成、経営シミュレーション・ゲームを行った。消費者や社会にもたらす影響を意識しながら取り組むことで、自分‐食‐社会のつながりを認識しやすくした。これらの授業を通して個人的な興味・関心に偏らない食生活観を得ることをねらいとした。授業記録およびワークシートの記述から、授業の理解度や生徒の意識の変化などを明らかにした。
【結果および考察】
(1)現代の高校生は食生活や健康に関して、好きなものを好きなだけ、食べたい時に食べるとか、痩身へのあこがれから食事量を少なくし、朝食を欠食するなど、自分個人の興味・関心を偏重する傾向があり、食糧・資源問題について考えたり、国や地域の食文化を大切にするというような、食生活と社会・文化とのかかわりには関心が薄い傾向があることがわかった。
自分の食生活を社会文化的文脈の中で捉えること、すなわち今手元にある食べ物がどのような経路をたどってきたのか、また、食品廃棄が環境に対してどのような影響があるのかなど、自分の食生活と社会とのかかわりを理解することは、主体的に食生活とかかわっていくために欠かせないものではないかと考えた。
(2)授業実践の結果、生徒は授業に積極的に参加する姿勢が観察された。ワークシートからは、商品としてサンドイッチを作ったことで、食べ残される悲しさや、客に食べてもらう意識が生まれるといった感想が見られた。また、個人的な興味・関心に偏らない食生活観を持ち、今後の自分の食行動を改善しようとする意欲のある生徒は、食生活にかかわる社会的な問題について、消費者側と販売者側の両者の立場を理解して問題の解決策を考えることができた。