抄録
1.研究の背景と目的
活動を通した学びを学習者個々に内化させ定着をうながすために,学習者による自己評価の有効性が吟味されている。教育評価でいう自己評価とは,「子どもたちが自分で自分の人となりや学習の状態を評価し,それによって得た情報によって自分を確認し今後の学習行動を調節すること(田中,2008)」であり,学習活動の自己制御(self-regulation)としての目的をもつ評価である。平成20年に告示された小学校学習指導要領家庭科においては,興味・関心をもつこと,基礎的・基本的な知識・技能を習得すること,日常生活で活用すること等といった,認知変容をともなう製作能力の育成が求められている。一連の製作学習における学習者の自己評価活動は,製作学習を通して育成されるこれらの能力をメタ認知させる手立てとなると考えられる。
製作学習には,設計・構想場面,製作場面,製作物のふりかえり場面といった異なる自己評価の目的をもつ3つの場面がある。本研究では,小学校家庭科の巾着袋製作学習の中で,自己評価項目を各場面に設定し,構想と実際の製作の違い,製作場面のつまづき,製作物のできばえと自己評価との関連といった認知過程を分析することを目的とした。
2.方法
東広島市立M小学校5年生29名(男児17名,女児12名)を対象に2009年12月,120分の巾着袋製作の授業をおこなった。事前に巾着袋の形と中に入れるものを選択,決定させ,本時は装飾(自由構想)と縫製をおこなわせた。授業形態は4~5人班とし,班員の構成は製作学習に関する学習スタイルと意識調査を参考にした。各班に15×20cmの布16枚と材料キット(40cmひも1本,ボタン3個,刺繍糸3色,5cm角フェルト2枚)を6セット配布し,児童に1つずつ選択させた。
構想場面では,選択した材料を見ながら巾着袋の装飾を考えさせ,作る順番を計画させた上で,装飾に取り組ませた。装飾の制限時間は20分とした。製作場面では,授業者が作業手順を示し,同じ進度で巾着袋を製作させた。工程の指示は,縫製にかかわる「布を裏側にして半分に折る」から「ひもを通す」までの8つの作業とした。
分析資料は,自己評価シートの3場面における評価および記述と製作物とした。自己評価項目は,「装飾の材料とデザイン,順番を構想し,実際に製作した上でどう感じたか」,「作ることは楽しかったか,その理由」,「難しかったこと(14項目から複数選択)」,「袋のできばえと製作の課題」とした。
3.結果
(1)装飾,順序の計画と達成状況
8割の児童が装飾計画の全てを達成することができていなかった。自己評価では,全ての児童が「むずかしかった」,「思っていたより時間がかかった」等,構想と実際の製作との違いを記述していた。
(2)製作場面のつまづき
製作学習をふりかえり,難しいと自己評価した作業は,「デザインを考えること(14名)」,「ひも通しのところを並ぬいすること(13名)」,「ひもを通すこと(11名)」の順に多く,「袋の横を並ぬいすること(6名)」や「布を選ぶこと(1名)」は少数であった。
(3)製作物のできばえと一連の自己評価との関連
製作物と一連の自己評価活動を照らし合わせて事例を検討した。その結果,自己評価活動は児童自身の学習状況の把握や製作活動を調節する自己調整的な役割をもっていること,できばえの自己評価の対象が自由構想による装飾に偏っていること等が特徴としてみられた。