抄録
【目的】
本研究は昨年発表の「不要な布を使ったスリッパの教材開発と授業の展開」に続き、平成21年度に実施した中学校の実習授業の実践結果を報告するものである。日常生活と密接した教科家庭科において、安価な商品を大量消費する時代に育った生徒達に身近な衣服から限りある資源に気付かせ、生活を見直す意識付けが必要であると考える。本研究は被服実習において基礎的な縫製技術を習得させ、資源に配慮した衣服のリフォーム方法を身に付けさせることを目的とし、教材開発及び授業の展開をし、その教材の学習効果を検討した。
【方法】
(1)対象
県内の公立中学校2学年118名を対象に、教科家庭科において「不要な布を使ったスリッパ」制作を平成21年9月~平成22年1月にかけて1回50分の授業を計11回実施した。授業前に事前調査、授業終了後に事後調査を行い、学習効果を検討した。
(2)教材開発と授業の展開
基礎的な縫製技術を習得することと、資源に配慮した衣生活の観点から古着及び古タオル等の不要な布をリフォームする方法を学ぶことを目的とした教材開発を行った。学習活動は1~2時間目_丸1_古着の解体_丸2_型紙の選択、3時間目_丸3_印付け、4~6時間目_丸4_ミシン縫い、7~8時間目_丸5_縫いしろの処理_丸6_中表部分の裏返し_丸7_閉じ口の返し縫い、9~10時間目_丸8_スナップボタン付け、11時間目_丸9_装飾用のボタン付けをした。
【結果】
(1)生徒の実態(事前調査)
縫製技術…小学校で学んだ縫製技術についてはボタン付けが多く、次いでミシン縫い、並縫い、アイロンかけであった。各家庭で経験のある縫製技術についてはアイロンかけが多く、次いでボタン付け、並縫いであった。被服制作で難しく感じる部分については手縫いが多く、次いでミシン縫い、裁断であった。
不要な衣服や布のリフォーム…家庭で不要になった衣服や布の有無については「わからない」が46%と多く、着られなくなった衣服の処分方法については、「兄弟姉妹や親戚の子、友達等に譲る」が51%、「捨てる」25%、「わからない」12%、リフォームに関しては「その他」10%の「雑巾にする」「捨てずに布にして保存」「座布団カバーに作り変える」だった。小学校で不要な衣服や布を使ってリフォーム作品を作ったことがある生徒は23%で作ったものは雑巾、トートバッグ、クッションカバー、エプロンであった。家庭で不要な衣服や布を使ってリフォーム作品を作ったことがある生徒は15%で作ったものは巾着、雑巾等であった。
(2)生徒の変容(事後調査)
縫製技術…ミシン縫いについて「上達した」「どちらかといえば上達した」が合わせて81%、手縫いの返し縫いについては「上達した」「どちらかといえば上達した」が合わせて80%、布の裁断については「上達した」「どちらかといえば上達した」と「どちらかといえば簡単だった」「簡単だった」が同数となった。
不要な衣服や布のリフォーム…家庭で着られなくなった衣服や不要な布の有無については「あった」が84%と多かった。不要な衣服や布を使った作品(スリッパ含)をまた作ってみたいかについては「作ってみたい」「どちらかといえば作ってみたい」が合わせて63%、全体を通しての感想は「楽しかった」「どちらかといえば楽しかった」が合わせて83%、自由記述では「不要な布を必要な物に変えることができたから」「不要な布でも色々な物に作り変えられるんだと思ったから」「いらない布を活用できるのがおもしろかったから」「自分で自分の物を作るのは楽しいから」「スリッパを作ってみて楽しかったから」「将来、役立ちそうだから」等の記述が見受けられた。
以上から、縫製技術については基礎的な縫製技術であるミシン縫い、手縫いが上達したことがわかった。不要な衣服や布のリフォームについては、家庭に不要な衣服や布があることを実感した生徒が多くおり、リフォーム作品を作ることで布の価値や資源の大切さに気づき、また、物作りの楽しさを感じ取った生徒が多いことがわかった。このことから本研究の目的である基礎的な縫製技術の習得、及び資源に配慮した衣生活の観点から古着及び古タオル等の不要な布をリフォームする方法を学ぶことができたと考えられる。
今後の課題としては、生徒が苦手とする縫製技術をどのように作品の作業行程に組み込むかの見直しと、最後まで布を使い切る工夫あるリフォーム作品の検討が必要と考えている。