抄録
1.問題の所在と研究の目的
小林・柳(2008)は,玉結び・玉どめについて教員養成課程の大学生を対象とした調査を行い,被験者の技能が低いことを明らかにした。しかし小学生への指導を検討する場合には,大学生のデータだけでは不十分である。そこで,本研究では調査の対象を小学5年生に移し,玉結び・玉どめの技能の実態を明らかにすることとした。
2.研究方法
玉結びについては,5年生49名を対象に調査を行った。「1分間にできるだけ多くの適切な玉結びを作ってください」と口頭で指示をし,玉結びを行わせた。できた玉結びについて1つずつ自己評価行わせた。提出された玉結びは,(1)大きさ,(2)位置,(3)締め具合について評価した。また録画資料から適切な玉結びができない原因を特定した。
玉どめについては,5年生24名を対象に調査を行った。2~3cmのなみ縫いがしてある晒し木綿の縫い終わり部分に玉どめをするよう指示をした。提出された玉どめは,(1)大きさ,(2)糸の長さについて評価した。また録画資料から適切な玉どめができない原因を特定した。
3. 結果と考察
3.1.「玉結び」技能の実態
1分間に作ることができた玉結びが一つもなかった児童は1名,最多の11個を作ることができた児童2名であった。一人当たり5.8個の玉結びを作ることができた。
49名が作成した玉結びは合計289個であった。約54%の玉結びが「適切である」と自己評価されたが,評価基準に沿って他者評価すると次のような結果が得られた。まず,玉結びの大きさについては「小さすぎるもの」11%,「適切なもの」26%で,「大きすぎるもの」が63%と多かった。これは「小さすぎる玉結び」の方が「大きすぎる玉結び」より多かった大学生の結果とは傾向が異なる。さらに,大きすぎると判定された小学生の玉結びのうち89%が「ループのある玉結び」であった。また,糸端を引っ張り,締め具合を調べると3割の玉結びが完全にほどけてしまったが,このほどけた玉結びのうち75%が「ループのある玉結び」と判定されたものであった。
また,結び目の位置に関しては,10mm以上糸端を残した部分に玉結びを作る児童が多い(46%)ことがわかった。糸端を多くのこして玉結びを作ることは,後述するように「ループのある玉結び」の原因となりうることから問題である。
録画資料から「ループのある玉結び」ができる大きな原因として,(1)はじめに糸端を持たない,(2)糸を指に2回以上巻く,(3)糸をしごききるまでに指を離してしまう,ことがわかった。
3.2.「玉どめ」技能の実態
玉どめのできなかった児童(「結び目無し」)は,24名中8名(36%)であり,玉結びよりも難しいことがわかった。しかし,適切な大きさのものが48%であり,玉結びに比べ,できてしまえば結び目の大きさに関しては課題が少ないことがわかった。むしろ,玉どめに関しては,糸の長さ(縫い終わりから結び目までの長さ)に課題があることが明らかになった。糸の長さの内訳は「長すぎる(0.5mm以上)もの」63%,「つれがあるもの」31%で,「適切なもの」は1割に満たない。縫い終わりから結び目までの長さが最長8cmのものもあった。
録画資料より,児童は机の上に布を置いて玉どめを作ろうとすることから,針に糸をうまくまけなかったり,針をうまく引っ張ることができなかったりして,適切な位置に結び目を作ることができない児童が多くいることがわかった。