抄録
【研究背景と目的】
2010年6月には改正貸金業法が完全施行となった。これは、カードや消費者金融などの利用限度額を規制したり、キャッシングにおいては、年収の3分の1を超える借入を不可とするものである。段階的施行であったが破産件数は前年度に比べ、減少傾向となった。しかしながら、多重債務の問題はまだまだ山積みの状況と考えられる。そのような中で、借入等に関する教育は遅れていることが指摘されている。
今回の学習指導要領改訂により、技術・家庭科家庭分野では、「D身近な消費生活と環境」が設置された。内容としては、家庭生活と消費を中心として学習するが、債務などに関する教育内容は盛り込まれていない。これは中学生自身が直接債務等に関わらない為と推察されるが、間接的、あるいは近未来において関わる恐れもある。よって、多重債務に陥らないように、また陥ってしまった場合の対処の仕方を「D身近な消費生活と環境」の内容に補足的に盛り込むことは、意味のあることであると考えられる。加えて多重債務者発生の予防教育として活用できると考えられる。
そこで本研究は、「D身近な消費生活と環境」に、多重債務者に陥る要因や多重債務者を理解する内容を組み入れるための資料を得るために、多重債務者支援者の語りから、多重債務に陥る経過と、学校教育でどのようなことを発信すべきと債務者が考えているかを明らかにする。その上で、中学校家庭科で実施可能なプログラムを開発し、提案する。プログラムの提案は、現場教員が授業計画を立てる時に役立てることができる。中学生の段階から多重債務について学習することは、高等学校における消費者教育と体系的に継ぐことができると考えられる。
【方法】
半構造化面接法によるインタビュー調査。面接期間は平成21年8月~9月であった。時間は約90分、1人につき1回行った。調査協力者は、多重債務者同士による自助的救済を行う団体に所属の多重債務支援者7人。面接場所は協力者の活動拠点の施設内にある研修室を用いた。面接及び記録は研究者が行った。得られたデータは逐語録とした。目的に該当する文章や段落を抽出し、その次に類似の意味のまとまりごとに概念化した。また、この概念化と同時に概念間の関係性を検討した。本研究は京都ノートルダム女子大学生活福祉文化専攻の倫理委員会の承認を得て行った。
【結果】
多重債務に陥る経過は、初期、中期、後期の3つに区分できた。
初期は、「銀行で預金をおろすカードで借入もできるので1つのカードで2つの用途が理解できない」「借り入れカードの残高表示を自分の預金の残高であったり、マイナスまで借入ができるため、理解不能となり感覚が狂う」を含む3つの小概念から【安易な考え方により借入を行う】ことが示された。中期には、「借入感の顕在化」「心に根付く恐怖心のあらわれ」を含む5つの小概念から【何とかして返済したいと考える一方で現実を直視せず、楽観視をする】とまとめられた。後期では「利息だけを払い、目の前の返済から逃れたいという気持ち」「返済を工面するための生活」を含む4つの小概念から【自殺以外の選択肢を知らず借金から逃れる為、将来を悲観して自ら命を経つ】という経過が見出された。
学校で行うべき教育と考えられていた「社会の現状を把握させる教育」「債務に関する正しい知識教育」という2つの小概念から【正しい情報提供をする】という概念が導き出された。次に「正しい選択のできる子どもへの育成」を含む2つの小概念から【判断力・自己防衛力を身につける】という概念が生成された。また、「計画的に金銭管理をする」を含む2つの小概念からは【将来設計を立て、計画的に金銭の管理ができる人間の育成】とまとめられた。さらに、「未然防止教育から事後処理までの教育」という小概念から【債務者となった場合の対処教育】という概念ができた。「保護者への消費者教育」を含む2つの小概念から【家族による支援】が見出された。単独の概念では【子どもの心にまで響く教育】【多重債務が死に発展すること】が示された。