抄録
【目的】
グローバル化、情報化など、我々の生活、教育を取り巻く環境は劇的に変化している。家庭科教育は変化する社会を生きる子どもたちにいかなる資質や能力を育成すればよいのか、中長期的に展望することが重要な課題である。諸外国における教育課程の動向について調査研究を行うことは、将来における家庭科のあり方を検討するための基礎的な資料となりうる。これまで、家庭科教育学会、国立教育政策研究所などにより、アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、ドイツ、韓国、台湾などの家庭科の動向が調査されてきた。本報告では、過去に日本に紹介されたことがないアイルランドにおける家庭科教育の概要について報告する。
アイルランドはヨーロッパの北西部に位置し、北海道とほぼ同じ面積に390万人あまりの人々が暮す国であり、多くの国民にとって英語が第1言語である。教育制度は教育・科学省によって定められている。初等教育は4~12歳の8年間、6歳からの6年間が義務教育である。初等教育は国からの予算でまかなわれるが、運営は修道会であり、大多数の子どもたちは教区の教会が運営する国立のミッションスクールに通っている。中等教育は中等学校、職業学校、コミュニティ・カレッジ、総合中学校でおこなわれ、各々ジュニア課程、シニア課程に分かれている。ジュニア課程の3年間が義務教育である。高等教育は総合大学・教育カレッジ、科学技術・各種カレッジ、私立大学で行われている。
【方法】
2010年7月17日~25日にアイルランドに渡航し、カリキュラムスタンダード、家庭科教科書などの資料収集を行うと同時に、現地の家庭科教師に家庭科教育実践に関するインタビュー調査を行った。また、必要に応じて、アイルランド全国カリキュラム・評価審議会ウェブページからの情報収集を行った。
【結果】
得られた結果の概要は以下のとおりである。
1)家庭科は中等教育における選択教科として位置づけられている。
2)すべての教科は「全国カリキュラム・評価審議会」(National Council for Curriculum and Assessment)により統一カリキュラムが設定されている。
3)家庭科の統一カリキュラム“Home Economics Scientific & Social Syllabus”によると、家庭科のコアの内容は、食生活(Food studies)45%、資源管理・消費者教育(Resource management and consumer studies)25%、社会教育(Social studies)10%であり、残りの20%は、住居デザイン・管理(Home design and management)、織物・ファッション・デザイン(Textiles, fashion and design)、社会教育Social studies)から選択する。シラバスの全内容は180時間(1単位時間40分)で計画し、少なくとも週に続けた2時間を実習にあてる。
4)家庭科教科書は、ジュニア課程向け、シニア課程向けが3社の出版社から計6種出版されており、各々の教科書のワークブックも合わせて作成されている。教科書は、担当する家庭科教師が選択し、教師が選択した教科書を、生徒は書店で購入して授業で使う。
5)教科書の内容は“Home Economics Scientific & Social Syllabus”に忠実に準拠したものであるが、出版社による特徴もある。インタビューに応じてくれた家庭科教師Kathryn McSneeney氏は、“LINKS”として関連する内容の教科書ページや、ウェブページのアドレスが掲載されているThe Education Company社の“LIFEWISE”(ジュニア課程)を使用しているとのことであった。
6)同氏によると、勤務校においては、ジュニア課程では12教科、シニア課程では7教科を選択する。ジュニア課程は家庭科を選択する生徒が多いため男女半々であるが、選択数の少ないシニア課程は、受講者が女子に偏りがちとのことであった。