抄録
【目的】1990年代以降、様々な国の教育政策の中で、実際の生活の中に存在する諸問題の解決力育成がより重視されるようになってきた。しかし、問題解決アプローチによる学習は、問題の所在が個々人で異なるのは勿論のこと、時代、空間的範域(地域社会)の条件でも違いが生じることから、普遍的・系統的な教科内容の構想には多大な困難が生じる。家庭科教育は教科成立当時から教科の特徴に問題解決アプローチが掲げられてきた。しかし、このことは学習者に現実的な学びの機会を提供することと同時に、系統的な学びの蓄積を生徒ができるための工夫を教師側に求められてきたと考えられる。 そこで、本報告では「普遍的な教科内容」の分析に寄与するものの一つとして、教科書の「索引」に注目した。とくに、高等学校段階の「家庭一般」、「家庭総合」の索引項目に取り上げられる索引項目の構成及び掲載語彙の変化について、学習内容項目の時代的特徴、索引利用において想定される用途等から明らかにする。「索引利用」の検討では、家庭科の学習方法のひとつである「問題解決アプローチ」の現れについて考察する。なお、本研究における索引項目の扱いを「(教科書製作者が)教科書に登場する語彙中、授業内外で生徒に活用される機会があり、学習内容のエッセンスを示すと捉えたもの」とした。【方法】1956(昭和31)年の学習指導要領改訂施行以降に使用された「家庭一般」及び「家庭総合」の教科書を分析対象とする。「家庭総合」を対象としたのは、「家庭一般」と単位数が同じであり、最も「家庭一般」の内容系統に近い科目だからである。これらの科目の教科書のうち、(1)継続的に(各学習指導要領改訂時に)「家庭一般」、「家庭総合」の教科書を発行、(2)教科書のシェア率が高い、という2つの条件にあった4社発行分をとりあげる。分析にあたり、入手できた69冊(「家庭一般」59冊、「家庭総合」10冊)の索引項目を6つの時期(学習指導要領改訂施行時期、「家庭一般」:第1―第5期、「家庭総合」:第6期)にわけ、12種類の内容カテゴリーに分類し、分析する。分析対象の語彙数は、約17,000語(のべ数)であり、1冊あたりの最少掲載数は140語(第3期)、最大掲載数は448語(第6期)だった。【結果】いずれの期においても、「食生活」に関する語彙が最も多く2―3割を占めた。第3期(1973―1981年)までは、「高齢者・福祉」、「環境」に関する語彙がとても少なかったが、第4期(1982―1993年)以降の索引には、これらの内容カテゴリーに該当する語彙掲載が増加した。「食生活」分野に次いで多かったのは、「家庭一般」の時代では「衣生活」分野(第2―第5期)で、「家庭総合」になった第6期では「保育」に関する語彙が2番目に多かった。索引項目に掲載される語彙は、教科書改訂に伴い語句の部分修正や入れ替えが3割程度されていた。 掲載された索引項目において想定される利用用途には、(1)言葉の「意味を覚えて使う」あるいは「意味を確認する」ことを目的とした語彙(例:「栄養素」、「可処分所得」など)の割合が最も多い。これは、他教科における索引項目の活用方法と同様で、一般的な利用用途といえる。そのほか、(2)対象の特徴について考え、まとめる学習活動で活用可能な語彙・語句(例:「乳児の身体の発育」、「衣料用繊維の主な物理的性質」など)が挙げられる。これは、とくに第2―第4期で多く見られた。また、全ての時期を通して、(3)問題解決アプローチに展開可能な課題内容(例:第2期「家事労働の能率化」、第4期「塵芥処理」、第6期「持続可能な発展」など)が索引項目に挙げられている。これらは索引項目の利用用途(1)以外に、課題設定の際にも活用可能と考えられる。