日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第55回大会・2012例会
セッションID: A4-5
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第55回大会:口頭発表
日本人学校中学部における家庭科指導の実態
-教員調査による比較-
*池﨑 喜美惠
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抄録
【目的】
 世界51ヶ国・地域には88校の日本人学校が設置されており、日本国内の小・中学校と同等の教育を受けることを目的とした全日制の学校である。海外に在留する子どもたちの教育機関として、日本人学校は重要な役割を果たしている。本研究では、日本人学校の家庭科教育の現状がどのように変容しているか、2006年及び2010年に日本人学校の家庭科担当教員に調査した結果をもとに経年変化を検討した。そして、日本人学校の中学部の家庭科を指導する教員の属性や指導意識・方法の実態を考察し、今後の課題を明らかにすることを目的とした。
【方法】
 2006(平成18)年6月及び2010(平成22)年11月、全世界の日本人学校88校へ調査票を送付し、回答を依頼した。前回調査(2006年調査の有効回収率は47.7%)の42校、今回調査(2010年調査の有効回収率は52.3%)の46校の中学部の調査票を分析対象とした。分析内容は、1)家庭科担当者の属性、2)家庭科の教育環境、3)家庭科の指導方法、4)現地理解教育の観点からの指導例、5)家庭科指導上の問題点など である。
【結果及び考察】
 1)家庭科を指導する教員構成は、2006年調査も2010年調査も専任教員1名が約6割強、非常勤教員1名が約2割であり、女性教員が約7割を占め、ほぼ同様の傾向であった。しかし、年齢構成では2010年調査では20歳代の教員が多く、小・中学部を同一教員が指導する割合が増加した。また、家庭科の教員免許を所有する教員は25%と増加し、教育系出身者が約51%と増加したが、家庭科を専門的に学んでいない教員が、日本人学校の家庭科を指導しているという現状には変化がなく教員配置に課題が見出された。
 2)2010年調査では、複式学級で家庭科を指導しているケースが約41%であった。施設・設備の充足については、2010年調査では、「十分備わっている」が18.2%、「不足している」が20.5%であった。2006年調査より、施設・設備の充足率は進んでいるが、現状は両極化していることが判明した。また、文部科学省から給与されている家庭科の教科書を常時使用する教員は、やや減少してきた。そして、記述内容が現地の実情に適合していないために、使用しないという教員もいた。2010年調査では、生徒の家庭科への関心を「とてもある」と51.2%の教員が評価し、授業態度を「とても積極的」と52.3%が評価していた。2006年調査より、1割以上多い教員が家庭科に対する生徒の関心度や授業態度を高く評価していた。
 3)家庭科の指導方法として、「教科書を使用して講義」「実習を導入」をあげた教員が多いことには変化がなかった。しかし、「スライドやVTRを視聴」及び「現地にあった内容を導入」を列挙した教員が増加した一方、「家庭実践」や「調べ学習・発表」をあげた教員が減少した。このことから、定型化した指導方法と時代や現状にあった指導方法が混在しており、教員の指導の工夫が垣間見られた。
 4)海外で暮らす子どもたちにとって、現地の日常生活は家庭科の学習とリンクしていなければならない。家庭科での現地理解教育に関する指導例として、次のような実践例があげられた。調理実習では現地の材料を使用したり、現地の織物を糸から織りあげたりなど、現地のものに依拠した学習題材を利用していた。また、現地校との交流や校外学習を活用して、習慣やマナーについて扱ったり、衣類の取り扱い表示について日本とヨーロッパの表示を併記して教えたりしていた。さらに、家庭科にイマージョンを取り入れたり、仏語でお菓子作りの調理実習を行うなど、現地語を使用した家庭科の学習により、現地生活への適応を配慮していた。 
 5)家庭科指導上の問題点として、両調査とも「教員の専門性の欠如」を半数以上の教員が列挙していた。しかし、「教科書にそって進めるとギャップがでてしまう」「教材不足」「被服製作の材料不足」「授業時間数の不足」などの問題点を列挙する教員は減少した。 以上のことをふまえると、日本人学校の家庭科指導には、教員配置の問題は顕在化しているが、施設・設備や実習教材の入手などは情報化の進展により改善されてきていることが明らかとなった。
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© 2012 日本家庭科教育学会
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