抄録
1.目的
便利で効率的になったはずの消費生活において,家事技術の低下,生活力の減退といった新たな問題が生まれている。『平成20年版国民生活白書』(内閣府2009)では,現代の生活の諸問題を解決するためには,我々の社会は「消費者市民社会(Consumer Citizenship)」へ転換することが求められているとしており,これからの生活者は,生活力の向上のための知識・技術の習得を意識的に行うとともに,受け身ではなく,積極的に生活の諸問題に取り組むことが求められている。消費者市民社会の将来の支え手となる子どもたちも,衣食住に関わる知識・技術の基本を身につけ,生活の諸問題に主体的に関わる生活者として成長することが望まれる。しかし小学生の実態として,家事を行ったり手伝ったりする程度は非常に低いことが報告されており,学校での家庭科学習で家事参加への意欲を高める授業の開発が求められる。
そこで本報告では、小学生に行った家事に対する調査結果をもとに,意欲が高まる授業を検討し、実践した後に、その授業の効果を検討することを目的とする。
2.方法
まず,小学校高学年児童の家事参加に影響を与える要因を明らかにするために,千葉県内の公立小学校の4~6年生の児童を対象に2010年9月に質問紙調査を行った。回収された1064票のうち分析の対象は1036名(男子505名,女子531名)である。分析の結果,家事に対する「面倒,いやだ」などの消極的な気持ちとともに家族の働きかけが参加度に大きく影響しているということが明らかとなった(第54回大会研究発表要旨集参照)。そこで,学校教育における家庭科の授業で消極的な気持ちをなくすような手立てをとれば,苦手意識が克服され,家庭環境の違いを超えて家事に対する意欲が向上すると考え,「食事作り作戦」という授業を開発した。授業を通して「面倒,するのはいやだ」「うまくできないからやりたくない」「自分がする仕事ではない」という消極的な気持ちが,「面倒ではない」「上手にできる」「やりたくなる仕事」という気持ちになることを目指し,先行研究を参考に手立てをとった。授業実践後,実習時の児童の振り返りの記述,感想,保護者からの家庭での様子の記述,事後調査から授業の効果を検討した。
3.結果
(1)実習時の児童の振り返りの記述と感想から,教師の手立てや題材構成の効果について検討した。児童の記述には「できた」「簡単」「またやってみたい」などの積極的な気持ち,知識・技能の向上,段取り・手際の良さ,協力・協働などがあげられており,先行研究をもとにした手立てや題材構成が有効であったことが検証された。
(2)毎回授業後,教師から授業の様子を家庭に知らせ,保護者から家庭での変化や様子を記述してもらった。記述の分析から,児童にとって「やってみたい,やりたくなる」題材であったこと,実習での「楽しい」「できた」などの気持ちが家庭での実践につながったこと,題材の内容が児童の生活と結び付き,家庭で生かすことができるものであったことなどが明らかとなり,手立ての効果が検証された。
(3)授業2ヶ月後の事後調査の自由記述には,意欲や自信の高まり,知識や技能が身に付いたことに加え,家族への影響,家の仕事の広がり・継続,管理・活用する力などの記述がみられた。時間やモノを管理する力や人と関わる力を指導に組み入れた効果が明らかとなった。以上の分析結果より,消極的な気持ちの克服をめあてにした授業実践が,継続的な家庭実践や主体的に生活にかかわっていくきっかけとなったことが明らかとなった。