抄録
【目的】被服材料の重要な機能である吸水性のうち吸水速度の測定法には,滴下法,バイレック法,沈降法があるが,このうち,教育現場では試料の準備や操作が簡便な滴下法が好まれる。しかし,測定時間を短時間で打ち切った場合は,複数の試料が所定時間内に吸水せずに順位がつけられず,測定時間を長くした場合は実験全体で時間がかかり過ぎる実情がある。そこで本実験では,滴下法による布の吸水性測定法について,学校現場でも入手しやすい市販の衣料用洗剤の水溶液を用いて,ポリエステル等の疎水性繊維についてもより迅速に測定できるような方法を試みた。さらに,液の滴下に用いるスポイトの太さと,試料布の保持状態の検討も行った。
【方法】試料布として綿,麻,羊毛,絹,レーヨン,キュプラ,アセテート,ナイロン,アクリル,ポリエステル(PET)および綿35%/PET65%混紡布(日本規格協会および色染社(株))の11種類の平織物を,各々の布に適した方法で糊抜きを行って用いた。試料布の糊抜きには,粉末弱アルカリ性洗剤および液体中性洗剤を,布の吸水性測定には液体弱アルカリ性洗剤を用いた。布の吸水速度は,JIS法を元に一部条件を変えた滴下法で行い,約20×20 cmの試験片を直径18 cmの刺しゅう枠に取りつけて,液滴を滴下して,鏡面反射が消えるまでの時間を測定した。滴下には太さの異なる6種類のスポイト(ポリエチレン製の短スポイト・長スポイト,ガラス製のパスツールピペット,1・2・5 mlの駒込めピペット)を用いて比較検討した。水および洗剤水溶液の表面張力は,デュヌイ型表面張力試験器(TOMBO BORL)を用いて測定した。測定はすべて室温(22±2 ℃)で行った。
【結果】 まず,液の滴下に用いるスポイトの太さについて検討をしたところ,スポイトの出口の直径,洗剤の濃度,1滴の量,水が吸収されるまでの時間は連動して変化した。したがって,「同じ太さのスポイト」と「同じ濃度の洗剤溶液」を用いれば,一定の条件が確保され,複数の試料布の吸水性を比較するのに支障ないと考えられるが,学校現場の予算や入手しやすさ,安全性を考え合わせ,ポリエチレン製短スポイトが最も使いやすいと言える。短スポイトを用いて水を滴下することにより,11種類の試料布の吸水速度を測定したところ,1つの液滴について最長で19分以上測定することにより,用いた11種類の試料布すべてに順位をつけられることがわかった。つぎに,吸水性の低い布に対してもより迅速に測定できるように、水の代わりに洗剤溶液を用いて同様に測定を行った。標準使用量(0.033%)およびその1/32,1/16,1/8,1/4,1/2,2倍,4倍の各濃度の洗剤溶液を用いて測定した結果,すべての試料布で,洗剤濃度が高くなるにしたがって吸水時間が短くなり,測定時間を短縮できることが分かった。最適な洗剤濃度について検討したところ,標準の1/2以下の濃度では,なおPETとナイロンの比較に時間がかかり過ぎることがわかった。標準濃度では,1つの液滴について最長6~7分で11種類の試料布の順位づけが可能であった。標準の2倍および4倍の濃度では,測定時間はさらに短縮できたが,水で測定した順位と異なる試料が多くなった。洗剤の無駄遣いや環境への配慮の観点からも,洗剤の標準濃度程度が最適な洗剤濃度であると結論づけられた。さらに,試料布の保持状態について検討を行ったところ,試料布を宙に浮かせずにガラス製のシャーレまたはホーロー引きのバットの上に置いた場合は,ガラスやバット表面を伝って吸水が起こり,吸水時間が急激に短くなる試料が多数あることがわかった。したがって,試料布の正確な吸水時間を測定するためには,布を宙に保持する必要があるが,それには必ずしも刺しゅう枠のような器具を用いなくても,簡便に行うにはビーカーに布をかぶせて輪ゴムで留める方法で充分であることがわかった。