抄録
1:目的
本研究の目的は、男女共同参画社会の形成に向けて、高校家庭科のジェンダーや職業労働と家事労働を考える分野で、今後、どのようなことに重点を置いた学びが更に必要かを検討することである。具体的には、複数の自治体が実施した、若者の男女共同参画に関する調査結果を中心に考察する。平成22年に閣議決定された第3次男女共同参画基本計画は、男女共同参画の推進のために、若者世代への広報・啓発に取り組む必要性を指摘している。近年、地方自治体や男女共同参画センター等が主体となり、高校生を中心とした若者の男女共同参画に関する意識調査が実施されている。このような調査を実施し、調査結果を一般市民に公表することは十分意義があるが、これら複数の調査結果を考察し、家庭科で、高校生にどのような働きかけをすればよいのか検討することも、有効ではないだろうか。
2:方法
本研究では、主に平成18~23年に、複数の自治体が実施した、高校生(一部大学生も含む)を対象とした男女共同参画に関する調査結果を検討した。
3:結果
本研究の目的に対して重要だと思われる視点は次の4点である。
(1)男女共同参画の意味は認知される傾向があったが、「女/男らしさ」を尊重する考え方も、特に男子には一定程度支持されていた。
(2)男女ともに、「男女平等」の理念に賛成する傾向が見られた。また男子も(自身の)生活的自立の重要性を認識し、将来、パートナーと2人で子育てをすることに積極的な傾向が見られた。しかし、男子は女子よりも、性別役割分業に肯定的であったり、「子育ては、男性はできる範囲でいい」と答えたりするなど、近代家族を基盤とした「平等」の概念を支持する意識がうかがえた。
(3)女子は、(自身が)職業人として経済的に自立することは重要だと認識していたが、将来、結婚や出産で就業を中断することについては、賛成する意識が高かった。
(4)自宅の家事労働の分担が、平等に行われていると考える者は、女子よりも男子に多く、家事の遂行に対する男女の平等の認知度に差が見られる調査があった(女子はそれに不満を感じていた)。
これらから導かれる課題として3点を挙げたい。第1に、生徒が、「女/男らしさ」を前提として男女共同参画を理解していないかという点である。第2に、女子が、十分な情報をもって、子育て中の働き方の選択肢(可能性)を考えられているのかという点である(もちろんこれは男子も考えるべき点である)。第3に、男女とも、夫婦で育児をすることに賛成する一方で、育児の第一責任者は母と考えることに矛盾を感じないのか、という点である。
以上から本研究では、次のような学びを提案したい。1つ目は、生徒が本質主義の観点でジェンダーを理解していないか、留意することである。2つ目は、女子の長期的な経済的自立を可能にする資源を考えさせる学びの提供である。かれらが職業選択でいかなる意思決定を下すのかは(かれらの)自由であるが、その意思決定を支える情報の提供を含めて、経済的自立のための“戦略”を考えさせる学習が、現在の経済不況の中では特に必要ではないだろうか。第3に、生徒が将来、パートナーとの家事労働や職業労働の分担を考える際、分担の「公正性」を検討させる学びの提供である。家事労働や育児には「創造性」とともに「拘束性」も伴う。生徒自身が想定する「平等」な分担が、相手の生き方を阻まないか、相手の負担になっていないか等を、相手の立場でも考えさせる場がいっそう必要ではないだろうか。