日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第56回大会・2013例会
セッションID: A2-6
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56回大会:口頭発表
スウェーデンの中学校家庭科における思考を促す食の授業
マリア・フェルド教諭の授業を事例として
*綿引 伴子荒井 紀子鈴木 真由子
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抄録

【目的】
スウェーデンでは、世界的にみて福祉水準が高く、男女平等が進み、環境問題や消費者問題への国民の関心が高い。家庭科では、自主協働を根底に据え、生活を中心において生活の場から社会への視点の広がりや過去から未来へ、地域から地球への時間的、空間的な広がりを意識した視点から教科が捉えられており、自律的に行動する市民としてのシティズンシップを育てる教育がめざされている。また、家庭科のなかでは、特に食の学習が中心となっている。本研究では、上述した背景をもつスウェーデンでは思考を促す学習が、実際の授業のなかで具体的にどのように展開されているのか、また、教師や学校のどのような考え方のもとに実践されているのかについてマリア・フェルド教諭の実践をもとに明らかにする。
【方法】
1.授業参観および資料分析:2010年10月4日および2011年10月28日に、ストックホルム市ホグサトゥ中学校にて、家庭科の授業を参観し、授業用資料等を収集した。
2.授業担当教師へのヒアリング:2010年10月4日および2011年10月28日に、授業者である家庭科教師Maria Feld氏にヒアリングを行った。
【結果および考察】
1.2010年に参観した授業の概要
1)日時:2010年10月4日12:30~14:30、1コマ(120分)
2)対象:中学校8年生(日本の中学1年生)10名(男子5名・女子5名)(24名のクラスだが、調理実習は半数ずつ行っている)
3)題材名:栄養バランスを考えた3品の調理実習
4)ねらい:・栄養のバランスを理解する ・バランスを考えた簡単な調理ができる ・導入学習なので調理に慣れる
5)授業の流れ:ⅰ)栄養のバランス3分類について、紙製食品模型を用いて、教師が様々な状況を示し、過不足やバランスについて問いかけながら復習する。 ⅱ)「サーモン・ポテト・野菜」と「リンゴのデザート」の組み合わせで、「野菜」と「りんご」について、教師の用意した材料(玉ねぎ、にんじん、グリンピース、りんご)を選択して、グループで調理法を考えて調理する。 ⅲ)試食し、PCソフトを使って作った献立の栄養を分析し、プリントに記入する。
2.授業およびヒアリングの考察
・年齢や生活状況など多様な生活場面に応じた食品の組み合わせについて、生徒に問いかけ、食品模型の組み合わせをいろいろ試しながら考えさせている。
・指導計画以外でも、状況やタイミングをとらえて、教育のあらゆる場面で生徒に思考させ判断させることを意図している(ベジタリアンの場合の肉の代用、腐りかけた玉ねぎへの対処等)。
・フェルド教諭が重視していることは、生徒に考えさせ省察させること、教え込みでなく1人ひとりとコミュニケーションを取りながらいろいろなやり方を認め向上させること、自信と責任をもたせることである。
・食事を作ることから、消費者教育や環境教育につなげ、社会の問題を明示している。
・前学習指導要領で示された「健康」「リソースマネージメント」「ジェンダー」「文化」の4観点を常に考慮し、学習の視点に加えている。4観点において、ヨーロッパでは?、北欧では?、スウェーデンでは?、あなたは?、と、視点や視野を拡げて考えさせようとしている。
・地方行政カリキュラムには、「教育において生徒の参与を増やすようにする」と明記され、学校評議会は教員・保護者・生徒の代表・校長から編成され、学期に2回会議をもっている。

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© 2013 日本家庭科教育学会
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