抄録
目的:本研究は、1973年4月に始まり1994年3月まで継続された京都府立高等学校の男女共修家庭科について、関係資料を収集整理するとともに初期実践者からの聞き取り調査を行い、全資料を大学図書館で保管し閲覧を可能にすることを目的としている。そして、これらの作業を通じて、京都府立高等学校の男女共修家庭科の全容を解明し、その歴史的意義を明らかにする。
本報告では、昨年度(2012年12月)例会での報告(「資料保存と府立研究会の組織体制について」)に引き続き、共修実践を牽引した京都府立高等学校家庭科研究会(以下、府立研究会)によって作成され、共修実践の主要な教材であった『男女共修「家庭一般」指導資料』(以下、指導資料)の分析結果を中心に報告する。
方法:府立研究会および関係者より提供された指導資料に関する文書の分析と指導資料の作成と出版の経緯を知る関係者2名への聞き取り調査により、指導資料作成の経緯とその内容及び全国の共修実践に及ぼした影響について検討する。なお、聞き取り調査は、府立研究会で指導資料作成委員を務めた中野慧子を対象として2012年9月13日に2時間、指導資料の出版経緯を知る元出版者社員Aを対象として同年7月26日と9月25日に計4時間実施した。
結果:1971年12月に府立研究会内に指導資料作成委員会が設置された。委員は府内4ブロックから選出された13名で構成された。委員会は1972年2月~1973年3月まで22回の会議を開催、各ブロックの研究結果を整理し下記の観点から指導資料の原案をまとめた。
①女子必修4単位「家庭一般」の実践交流、②「家庭一般」教科書検討、③関連する教科の教科書検討、④小学校・中学校家庭科の内容検討、⑤各領域の内容と時間配分の検討および文献資料の収集、⑥教育課程編成上の位置づけの検討。
作成された原案は府立研究会で協議され、課題が出た場合は再度、指導資料作成委員会で検討され訂正の上再提案された。こうした府立研究会の大多数の教員が作成に関わる過程を経て、指導資料(初版)は1973年4月に完成した。初版は教師用として作成された。 初版の内容は、Ⅰ生活と家族、Ⅱ生活と経済、Ⅲ生活と衣食住から構成され、主として女子用「家庭一般」教科書には記載されていない社会科学的事項に関する教授資料が掲載されていた。例えば、家族史、婦人労働、物価高騰の要因、消費者運動、社会保障制度、公害問題に関わる著書や新聞記事から抜粋された文書や図表などである。こうした資料をもとに、社会科学的視点から生活を認識する家庭科の授業が展開された。
1975年3月には、初版をもとに生徒用の指導資料(第2版)が発行された。翌1976年3月発行の生徒用(第3版)から実教出版の関連会社より発行販売されるようになった。聞き取り調査によると、発行当初は共修家庭科に対する批判から実教出版の社名を記すことが難しく、第3版には奥付が記載されなかったが、元指導主事森幸枝の要請により第4版以降は関連会社の社名が記載されることとなった。その後、増刷と改訂を経て1981年3月発行の改訂版3刷まで実教出版関連会社より発行された。
しかし、1981年6月に起こった野中広務副知事による指導資料に対する批判発言により、生徒用指導資料は使用出来なくなった。府立研究会は、指導資料を全面的に見直し、1982年4月に教師用指導資料(手書き版)を作成、共修家庭科実践の継続を計った。
また、野中事件以降、府立研究会は生徒用指導資料の版権を無償で実教出版に譲渡した。実教出版はその内容をもとに、新たに新家庭科教育研究会著『新しい家庭科資料』(新家庭科研究会)を1983年に出版、同書は全国で共修実践が始まる1990年代初頭まで版を重ねて発行され、西日本を中心に毎年、3万部から5万部が販売されたという。 このことから、『新しい家庭科資料』を通じて京都府立高等学校の共修家庭科実践の成果は全国に普及したと考えられる。