抄録
【目的】
中央教育審議会第1次答申(1996年7月)において「生きる力」が重視され,問題解決能力が注目された。1998年改訂,中学校技術・家庭科学習指導要領においても「生徒が自分の生活と結びつけて学習できるよう,問題解決的な学習を充実すること」と明記され,家庭科での問題解決的な授業実践は一層重視されるようになった。しかし,中学校の衣生活学習での問題解決的な授業実践は見あたらず,衣生活学習で生徒がどのような力を獲得しているのか,問題解決型の衣生活学習の学びを記録したものもない。そこで,本研究では,衣生活学習に問題解決的な学習を取り入れたカリキュラムを作成し,授業実践し,学習前後の生徒の記述から学びの変容を読み取り,問題解決的な学習の成果と課題を見出すことを目的とする。
【方法】
調査対象は山形市内の中学校第1学年40名(男子19名,女子21名)であり,実施期間は2012年4月~9月,12月~1月である。題材名は「『自分らしく着る』~本当の“おしゃれ”を見つけよう~」であり,17時間計画である。問題解決的な学習のプロセスを,探求のプロセスを大切にした実践的推論プロセスを取り入れ,①問題発見,②情報収集・検証・比較検討,③選択肢の検討・決定,④行動・省察の4段階に各学習活動を当てはめ,実施した。毎授業後の振り返りカードに,「学習内容」,「印象に残ったこと」,「さらに疑問に思ったこと」を記入させた。また,授業第1回目と最終回に「自分にとって本当の“おしゃれとは”なにか」について記載させた。
【結果および考察】
振り返りカードに記載された内容のうち,毎時間,生徒から出された新たな疑問は,全体を通し最も多かったのは「衣服の歴史・未来」であり,「自分自身について」,「流行」,「色(働き,似合う色」と続く。これらをまとめると「自分自身の着装」に関する記述が最も多く,次に「衣服の社会的な関心」に関する記述が多かった。
8,9時間目に実施した話し合い活動では,各テーブルごとに5つのテーマ(追い人,社会面,経済面,環境,未来)を設け,ワールド・カフェ形式で行い,模造紙に自由に記述された内容は「流行を追う不安」,「未来への期待」,「環境の悪化」などの記述が多く見られた。数人での話し合いだけではなく,多くの生徒と話し合うことで流行がもたらす様々な側面に気づいていることが明らかになった。
「自分にとって“本当のおしゃれ”とは」の質問に対する考えは学習前と後とで変化が見られ,「自分の好きな服・似合う服」が学習前後ともに最も多く記述されたものの,学習後に大幅に増えた内容は「環境を考えた服」であった。また,学習前は「色・服の組み合わせが上手」が2割近くあったが,学習後は0%となった。
以上のことから,学習によって,おしゃれに対する考え方に変容が見られ,単に“着飾る”という視点だけでなく,多角的な視点から衣服を捉えられるようになったといえる。