日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第56回大会・2013例会
セッションID: A4-6
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56回大会:口頭発表
小学校家庭科における製作活動の意義に関する研究
理科,図画工作科及び家庭科の製作活動の指導実態調査から
*鈴木 明子
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抄録

【目的】  中央教育審議会(2008)は「生きる力」を育むために,教科等を横断して取り組むべき事項に「ものづくり」を挙げ,幼稚園から高等学校までの教育課程において「ものづくり」に関する指導の充実が図られている。多々納ら(2006)によると,小学校家庭科を指導した教員は,家庭科の製作の意義として,「生活技能の習得」と「達成感・満足感」の二つを挙げている。しかしながら,家庭科における「ものづくり」教育の意義を明らかにするためには,教育課程全体の中で教科の製作活動の独自性や共通性をとらえ,製作活動を学習内容としている複数の教科の指導実態をふまえて,家庭科の意義を検討する必要がある。本研究では,小学校教育課程における製作活動の実態と課題を,文献研究と質問紙調査によって明らかにすることを目的とした。それらの結果に基づいて,小学校家庭科の製作活動の意義を教育課程全体の中で追究し,指導方法への示唆を得たい。
【方法】   小学校教育における理科,図画工作科及び家庭科の各教科の製作活動について,文献をもとに現状や課題を追究した。また,広島県3市の小学校教員(第6学年担任,3教科を指導している39名)を対象に,理科,図画工作科及び家庭科の各教科の製作活動について,指導の目的や方法を問う質問紙調査を行い,小学校教育課程における製作活動の実態を把握し考察した。それらの結果をふまえて,家庭科の製作活動の意義を追究し効果的な製作活動の指導方法について検討した。
【結果】 1 我が国の「ものづくり」に関する公教育は,明治時代以降,諸外国からの影響を受けながら,技能訓練と人格形成の間でどちらに価値を置くか揺らいだり,どの教科で扱うのか議論されたりしてきた。その時点では,フランスの手工とスウェーデンのスロイド手工の長所を折半した「普通教育としての側面だけでなく,職業教育としての側面も併せ持つ手工教育」が導入された。現在は,複数教科で二側面を志向する形を取っていると考えられる。  2 衣生活の変化や家庭科の教科目標の変化,児童の製作技術の低下を背景として,家庭科の製作活動は学習指導要領の改訂を重ねるにつれ製作物が簡易化し,技能に関する記述も減少した。  3 小学校教員対象の調査結果から,「達成感を味わわせる」,「学習意欲・関心を高める」及び「安全に気を付ける態度を育てる」などの意義は,3教科に共通して重視されていた。小学校教員は複数教科を指導できるという点を生かして「ものづくり」の指導を繰り返し継続して効果的に計画することが必要である。  4 製作活動は,理科では認知的変容の場として,図画工作科では発想・構想を表現する場として,家庭科では知識や技能の基礎・基本を習得する場として捉えられており,多くの小学校教員は学習指導要領に準じて各教科の指導を行っていた。  5 家庭科の製作活動の指導では,理科のように各製作工程の意味や順番を実感を伴って理解させたり,図画工作科のように発想や構想を大切にしながら計画を改善させたりして,ものづくりの知識や技能及び感性や態度を総合的に育むための工夫が可能であり,そのような展開によって独自の工夫が考えられる。  6 現在の小学校教育課程全体における家庭科における製作活動の意義は,生活者としての育ちを支えることにあると考えられる。関連の基礎的・基本的な知識及び技能の習得ばかりではなく,製作題材に向き合う中で児童が自分の日常生活に関心をもって生活を振り返り,製作物の用途に見通しをもって製作する過程で自己や家族のよりよい生活について考える機会を提供することが必要である。そのためには,製作計画及び製作過程における題材との向き合わせ方を再考することが不可欠である。

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