抄録
【目的】
1994年度から高校家庭科が男女共修となり、小・中・高を通して家庭科は男子も女子も共に学ぶ教科となっている。しかし、現実には、男子校は未だに規定通りの履修ができていないところも多い。 そこで、これまではおもに男子進学校の家庭科担当教員へのインタビューデータからはM-GTAを用いて男子進学校における家庭科の定着をめざすプロセスについて分析してきた。その結果、家庭科担当教員が男子進学校の実態に合わせた教材や授業のスタイルを工夫していくことで、家庭科に対する「生徒の学ぶ意識の向上」が見られ、こうした生徒の前向きな姿勢によって「他教科教員の理解と協力」が生まれ、その結果、実習室等設置などの「教育環境の充実」がはかられ、この教育環境の充実によって家庭科の学習内容の幅が広がって、さらなる「生徒の学ぶ意識の向上」につながっていくという流れが循環していき、家庭科定着への推進力が高められていく構図が析出された。この流れへと向かう過程で「生徒の学ぶ意識の向上」は重要なポイントであり、流れを動かす原動力となる。そこで男子進学校で家庭科を受講してきた生徒が家庭科を前向きに捉え学ぶ意欲を持ってきたか、あるいはその逆であったかといった、生徒が捉える家庭科観を明らかにし、男子進学校における学ぶ意欲を生み出す家庭科の授業のあり方を追究したいと考えた。そこで本研究では、男子進学校出身者の家庭科観について調査分析し、今後の男子進学校での家庭科の教育内容の充実に活かしていくべき示唆を得ることを目的とした。
【方法】
調査対象者は、5名の男子進学校出身者である。いずれも高校家庭科が男女共修となった1994年以降に高校に入学して、高校で2単位以上の家庭科を履修したことになっている世代である。この5名に半構造化面接を行い、川喜多二郎が考案したKJ法を用いて分析した。なお、分析あたっては川喜多研究所公認KJ法研究会で検討してもらい、分析の正確性を確保した。分析は、(1)インタビュー逐語録を1つの意味のまとまりにより細分化し、調査対象者の家庭科観に関するデータのエッセンスを書き込み、元ラベルをつくる (2)その元ラベルをひろげ、さらに同じ志をもっていると感じられる元ラベル同士をセットしていき「核融合法」を用いて表札づくりを行い、表札をつけた元ラベルは表札の下に重ね、クリップでとめる (3)その表札をつけたラベルの束を並べてラベル拡げ、ラベル集め、表札つけを繰り返し、ラベルの束が3枚になるまで統合する (4)空間配置、島どり、関係記号の記入し図解化を描く、の順で行った。
【結果】
分析の結果、次のことが明らかとなった。彼らは家庭科を《不要 》《家事の知識は、今は使わない》と考え、学校は家庭科を《軽私》《私的生活の学びより社会で活躍するための学びを重視》しているが、一方で彼らは《自分の意思》に沿う学びをしたい《家庭科は自由に主体的に学びたい》と考えている関係図が描き出された。彼らは家庭科を《不要》(家事の知識は、今は使わない)と考え、学校は家庭科を《軽私》(進学校は私的生活の学びより社会で活躍するための学びを重視)しているが、彼らは《自分の意思》に沿う学びをしたい(家庭科は自由に主体的に学びたい)と考えている構図が描き出された。すなわち、彼らは高校生の時に家庭科を学ぶ必要性を感じておらず、進学校では私的な家庭生活について学ぶことより社会のリーダーになるための学習や受験勉強の方を重視しているが、一方で知識の詰め込みになりがちな受験教科とは違って家庭科は自分で考え、自分で探求する学びであるので、そうした教科に対する支持もあるということが明らかになった。