抄録
【目的】
私立大学の小学校教員養成課程は、教科ごとの専修分けがない場合が多く、これまでの家政系学部における中高家庭科免許取得の学生と比較して家庭科に対する教科観や課題意識、苦手意識などに違いが感じられる。本研究ではこの違いを明らかにし、指導の課題を見つけることを目的とした。
【方法】
大学入学後、家庭科の指導法を学ぶ前(履修初回)に質問紙調査を実施し、小~高の家庭科の教科観、役に立った・役に立たなかったと思われる内容、印象に残った授業、家庭科教員のイメージ等を尋ねた。調査対象者は、小学校免許取得希望者(教員養成系学部)および中高家庭科教員免許取得希望者(家政系学部)の合計121名(回収率76%)であり、うち小学校免許希望者91名、中高家庭科希望者30名であった。また、中高の家庭科免許希望者には、学期末に教科観や教える立場から見て印象深かった授業を再び尋ねた。実施時期は事前調査が2012年9月、事後調査が2013年1月である。
【結果・考察】
小学校の一科目としての家庭科と免許科目としての家庭科を目指すものを比較したところ、次のような結果が得られた。
“家庭科のイメージ”については、双方にこれまでの多くの研究に違わず「調理(実習)/裁縫」もしくは「衣食住を学ぶ教科」と多く表記され、家族・家庭や保育の領域はみられなかった。これまでに”印象に残った内容”も”役に立った内容”も衣・食領域に偏っていた。教科自体のイメージは、「生活に役立つ教科」という表現またはこれに近い言葉を記述した者は両学部ともにみられたが、中高免許の者が7割であったのに対し、小学免許の者は2割程度であった。小学免許者によく見られた上記以外の回答は「楽しい教科」という表現であったが調理実習と結びついている者が多く、「主婦や家庭を持った時のための知識」「家事を学ぶ教科」「家庭的」「勉強ではないから楽しい」「主要教科でない」「簡単」といった回答も見られた。
一方、中高免許者には、「楽しい」と表記したものは1%ほどしかいなかった。「花嫁修業」「生活の豆知識」「副教科である」「内職される教科」「息抜き」といった表現が各1名みられた。ゆえに小学免許者は“教科”学習の意識が低く簡単にとらえており、中高免許者は簡単ではなく役立つ科目と捉えているがサブ教科意識が強い。
“役に立たなかった内容”としては、「特になし」が大半であったが、少数意見として「間取り/設計図をかいたこと」「収入・支出」「ライフコース」「高齢者」といった住・家庭領域、さらに衣・食領域でも「栄養素の種類や分類」、「カロリー計算」、「刺繍」「染色」「繊維の種類」「機織り」が挙げられていた。家庭科教員としては手を動かして考えたり、必要な基礎知識として工夫したりした内容であるように思われるが、いずれも学生の理由は「使うことがない」「試験のために覚えたが忘れたので使えない」といった即時的に活用できないことを示しており、学習意義が伝わっていなかった。
対象者は男女共修の世代であるが、「男子はできなくてもいいが女子はできなくてはいけない」「女子教科」「女ならできた方がいい」など、ジェンダーバイアスのある表現が散見された。この認識をもった原因追究は今後の課題である。
事後調査として、中高免許希望者に実施した調査では、教科観では「役立つ」より「生活に密着した」「生活に課題と改善を見つける」教科の認識が増え、他教科との関連も指摘があった。また、印象に残っている過去の授業を再考させたところ、事前調査では見られなかった家族・家庭、保育等領域の過去の授業にも言及がみられた。中高の免許取得者であるがゆえに専門性への意識が高くなり、授業準備学習の大変さと自分の学科専門以外への指導力の不足感から不安が高まっていた。これは良い傾向であると考えられる。負イメージの再生産を防ぐために、特に小学免許者に多い簡単意識やhow to意識の者にも学問に立脚した科学であることを認識させ、専門学習の必要性を自覚させる必要があるだろう。