抄録
目的:
家庭科は、衣食住、環境、福祉などの単元を生活者視点で学習する教科として、如何なる生活環境下にあっても、力強く主体的に生活できる「生きる力」をもった生徒の育成に努めなければならないと考える。そこで、東日本大震災から得た生活体験を、教育的価値あるものとして、今後の家庭科教育に活かすことを目的とする。
そこで、基礎情報を得るために高等学校家庭科教科書より震災に関する単元とその学習内容を抽出し、「防災」および「減災」への意識とその傾向を把握・考察する。次に、「東日本大震災と生活」アンケートを実施し、非日常的な生活から得た知恵・反省、体験等を調査し、これを基に今後の防災・減災教育に必要となり得る学習内容を検討する。
方法:
1.平成11年文部科学省告示58号に基づいて採択された、高等学校家庭科教科書、家庭基礎11冊・家庭総合8冊・生活技術2冊の計21冊を対象とし、震災に関する記述内容の傾向を調査する。
2.福島県立高等学校家庭科教諭18名から得た「東日本大震災と生活」アンケート調査から、非日常的な生活から得た知恵等を抽出し、今後の防災・減災教育に必要となる学習内容を検討する。
結果及び考察:
1.高等学校家庭科教科書計21冊を対象に、震災に関する記述について抽出した結果、震災に関する記述は「住」の単元に限って取り上げられていた。それは、自然災害の定義や、それに付随して起こる生活問題が記されるに留まっている。災害に関する記述の一部をあげると、「耐震」11冊、「建物の補強・補修」10冊、「避難所の確認」8冊、「家族との連絡方法の確認」6冊、などであり、ほとんどの教科書が建物の耐震構造や補強、家具の固定などを中心に記述していることが分かった。しかし、被災体験を紹介している教科書はなかったが、「震災への備え」や「震災関連の新聞雑誌等を探してみよう」と題して、演習を促している教科書もある。教科書調査より、まずは住居の崩壊を未然に防ぎ生命を第一に守ること、被災を最小限にする準備・方法、を優先的に記していることがうかがえる。しかし、被災後の生活に関する記述はみられず、非日常的な生活を強いられた際の知識・技術の学習内容は、十分とはいえないと考える。
2.福島県家庭科教員18名対象のアンケート調査結果では、東日本大震災で経験した非日常的な生活状況及びその対処法についての記述がみられた。「ライフラインが影響を受けていた時に、生活行動はどのようにしていたか」では、「パンを手作りした」「保存食を食べた」などの非日常時の生活行動が記されている。被災体験を経て、「家庭科として何をどのように教えるのが望ましいか」では、「洗濯機や炊飯器に頼らない、洗濯方法や炊飯方法などを、実習を通して体験させることが必要と感じた」「応用力で生活できるスキルを身に付けさせる必要がある」との回答が得られた。この二つの設問に対する回答から、非日常的な生活環境下においても生活を営むことができるよう、防災・減災教育をあらゆる生活領域から学習する必要があると考える。生活を学ぶ教科だからこそ、衣食住、消費生活、福祉など、多面から防災・減災教育を推し進めることが必要である。以上より、東日本大震災から得た教訓を基に、防災・減災教育を衣食住・福祉など広域な学習範囲において、生活者視点をもった記述内容を検討し、“家庭科教育だからこそ”学習できる防災・減災教育の発展に寄与したい。