目的:東日本大震災は、福島県、宮城県、岩手県をはじめとする広域な地域に甚大な被害をもたらした。復興にあたり、この震災で経験したことからの学びを活かすことは、これからの学校教育の重要な課題のひとつとして位置づけられると考える。そこで、本研究では、福島県家庭科教員を対象としたアンケート調査を実施し、震災直後から1年半経過した今までに起こったさまざまな被害の状況を冷静に振り返ること、および家庭科教員の目をとおした児童・生徒の変容の実態把握を行うことを目的とする。
方法:1.先行実態調査の検討
2012年8月にKGCサマーリフレッシュプログラム(教員免許状更新講習)に参加した教員を対象に実施した。
2.家庭科教員対象アンケート調査の実施
2013年12月~1月に福島県内の高等学校の家庭科教員51名に「東日本大震災と生活」アンケート調査を郵送にて実施した。
結果:1.先行実態調査の検討
小学校教員からの現状報告として、「家族を大切に思う」「外で自由に遊べない」や「転校児童の増加」が挙げられた。特に外で遊べないことは運動不足につながり、この1年で肥満児が増えたとの報告があり、教育現場においては速やかに対応すべき課題となっている。
中学校教員からは「避難訓練を真剣に行う生徒の増加」が挙げられ、防災教育の重要性が浮き彫りになった。このことから、防災や減災について、住居分野だけでなく複数の単元で取り上げることが望まれる。
また、「敏感に反応する保護者」を挙げた教員がおり、教員自身が、食の安全や原子力発電など「リスク管理」に関する考え方を学ぶ必要があると同時に、これらの考え方を保護者にわかりやすく伝えるためのコミュニケーション能力が課題となっていることがわかった。
高等学校教員からは、「水」、「防災・技術の必要性」が挙げられた。特別支援校教員は、「今を大切に生きる」「水、食料、電気の大切さ」などを挙げており、校種ごとにさまざまな課題に向き合っていることが浮き彫りになった。以上の事例についての検討をもとに、教員自身の体験記録も兼ねた「東日本大震災と生活」アンケート調査を実施した。
2.家庭科教員対象アンケート調査の分析・検討
福島県は、大きく「浜通り」「中通り」「会津」に分けられる。アンケートの回答者18名は、「中通り」が多数を占めた。よって本報告における実態は、郡山市、福島市を中心としたエリアの状況である。
(1) 勤務先の被害状況
被害ありと回答した教員は、1名で建物にひびが入った程度であった。
(2) 避難所設営・運営の中での家庭科教諭の役割
家庭科だからという特別な役割ではなく、全職員が、食事作りなどを行ったが、鍋ややかんなどの調理器具の貸出しを行い活躍した。
(3)生徒の震災前後の意識、言動・行動の変化
まずは、慣れない避難生活などに伴う心理的な不安定が挙げられた。 次に、前向きな変化として、感謝の念や一生懸命に取り組むことが挙げられた。しかし、その変化も徐々に薄れつつあるようだ。また、ネガティブな変化としては、原発問題に関連して、食材の産地や食事、出産等を心配している様子が伺えた。
(4)震災時に家庭科で教えている実践力や応用力が活かされた場面
例えば、食生活に関しては、「火を使わない実習」の報告があり、生徒からもこのことが震災の時に役に立ったとのことであった。
(5)ご自身の体験から家庭科として何をどのように教えるか
自らの力で生きていけるようにする「生きる力」、具体的には非常時の備えや持ち出し袋、炊飯や洗濯、身の守り方、生命の尊さ、助け合う気持ちなどを、実習を多く取り入れて教えることが挙げられた。
考察と今後の課題:
今回のアンケートは、主に「中通り」の先生方からの回答であったため、今後は津波の被害や避難地域が含まれる「浜通り」の先生方へのインタビュー調査を行い、具体的な授業計画および実践を行いたい。