日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第56回大会・2013例会
セッションID: B2-3
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56回大会:口頭発表
東日本大震災を踏まえた防災袋づくりの提案
-福島県家庭科教員対象調査を中心として-
*難波 めぐみ佐藤 典子武井 玲子深谷 笑子遠藤 恵
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抄録

目的:東日本大震災は、震災を経験した福島の私たちに防災教育の重要性を再認識させた。阪神大震災以来、小・中・高等学校で防災教育への取り組みが強化され、家庭科においても、住生活の単元で「安全な住まい」や「災害に備えた住まい方」などとして、災害への啓発が実施されてきた。その後、各都道府県においても、独自に補助教材を作成し配布するなどの実践的な取り組みが行われている。
  今回、福島県高等学校家庭科教員を対象に、「東日本大震災と生活」についてアンケート調査を行った。その中で、震災前の緊急時持出袋(以後、防災袋)の所持について質問したところ、所持していると答えたのはわずかであり、震災後の現在までの間で準備したと答えた人は3割に満たない結果となった。
  その結果から、家庭科教員自らも災害を風化させることなく、強く減災につなげる教育に取り組むべきであることを感じた。まさに、家庭科教育ならではの取り組みが、今こそ必要であり求められていると考える。そこで本研究では、高等学校家庭科「衣生活」の単元を活用して、防災、減災に繋がる働きかけが出来る力を育むための、教材を開発することを目的とする。
方法:
1.家庭科教員対象アンケート調査の実施(2013年12月~1月に福島県内の高等学校の家庭科教諭51名を対象)、2.授業実践、対象本学家庭科教員養成課程履修学生3名。
結果:
1.家庭科教員対象アンケート調査の分析・検討
  震災に対する防災・減災教育の必要性と実施状況について調査したところ、「必要性あり」と回答した人が8割であった。その内、以前から学校全体の取り組みとして実施していたが6割、家庭科では3割を割り、その他の教科として約1割となった。また、震災のような非日常的な生活の知識やスキルを教える必要性を感じ実施しているかを調査したところ、「必要性あり」と回答した人が9割にのぼり、その内の約8割が震災以前から実施されていたことが明らかとなり、福島においても防災教育が各高等学校で行われていることを知ることができた。
  また、災害時準備しておいて良かった物の中で、マスク約4割、所持金4割、懐中電灯4割と半数を割り、緊急時持出袋の所持率では1割を下回った。いつ、どこで、どのような災害が起こり、その時どのように動くことが必要であるのかなど、防災時必要となるスキルやツールの準備ができていない結果が得られた。
2.授業実践 
   東日本大震災以降、更に、多岐に渡った防災袋を目にするようになった。今回調査した35種類の防災袋の形態で最も多かったのは、リュック型で、移動時両手が自由になるなどの理由が大半を占めた。しかし、震災は、学校や家庭にいる時に起こるとは限らない。1.の家庭科教員対象のアンケート調査の分析で、家庭外で起こった震災への備えが不十分であることが明らかとなったが、この結果を踏まえ本学家庭科教員養成課程履修学生を対象に、教材開発としての防災袋の制作を授業の中で実施した。設定内容は、1)防災袋の所持対象、2)内容物、3)教材としての制作方法、4)評価である。いわゆる今後家庭科が一層進める、See(気づき)→plan(計画)→Do(行動)→See(評価)の活用である。 
  この授業実践により、学生の防災に対する意識の啓発へとつながったとともに、教材を開発するといった実践的態度を育成する授業展開が可能となった。
今後の課題: 
  防災に対する学校全体の取り組みによって、生徒の意識が高くなっているものの、それらが継続して行くことは難しいのが現状である。減災につなげるためにも、防災に対する知識の習得、減災に向けての働きかけ、いざという時に慌てることなく行動できるといった、防災・減災へ向けた意識の安全サイクルを作りあげることが必要となる。
  大震災を経験した福島の家庭科教員であるからこそ、強く家庭科の重要性を発信できるような、教材内容の検討を今後の課題としていきたい。

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© 2013 日本家庭科教育学会
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