日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第56回大会・2013例会
セッションID: A1-4
会議情報

56回大会:口頭発表
家庭科における生活改善意識の向上に関する事例的研究
*勝海 由里子
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【研究の目的】
 生徒が主体的に実践できる能力と態度を育成するための手段の一つとして文部科学省(2010)は自己の生活課題を見つめ,学習したことを生活に生かすための工夫を求めている。 
 しかし,大場(2009)は子どもの生活体験の減少などの要因から,課題設定を学習者自身が行うことの困難さを指摘している。この問題に対して,井波ら(2007)は「自らの生活体験が学習対象とどのような関係にあるのか意識化」させることで「学習者は学習対象を自らの生活に引き寄せて理解することが可能である」ことを示唆している。学習者が学習対象を自分自身に関連するものとして捉えるための方策として,岡本(2008)は,話し合い活動に着目し「生活形式への視点を明確にし,話し合い活動と一体化」することで,話し合い活動が問題解決探究過程としての学習活動を充実させると述べている。また,伊藤ら(2012)は,話し合いを軸とした学習デザインの中で「目標と学習の評価の一体化」を目指した授業実践を行った結果,学習者が主体的・自律的に本時の目標の達成に向け話し合う姿が見られることを報告している。しかし,英語での実践であり家庭科での効果についての検証は十分に行われていない。
 また,家庭科における評価に関し, 岡本(2008)は家庭科の実験・実習において指導と評価を同時に行うことは困難であると指摘している。実験・実習に多くの時間を割く教科の特性もあるが,授業の目標の達成度を評価し,指導に生かしていく事は全ての教科で大切なことと考えられる。国立教育政策研究所(2011)は,評価方法の工夫・改善策の中で生徒同士の相互評価の工夫を挙げている。植野(2005)は,自分の所属するコミュニティー内の評価を学習者が受け入れることは日常生活で行われる評価活動同様,最も自然な評価体系であるとし相互評価の有効性を述べている。
 そこで,本研究では目標を明確にした授業における「話し合い活動」に着目し,そこでまとまった意見を発表し,学習者相互で評価する授業実践を行い,それが学習者の生活改善意識に与える効果について検証することを研究の目的とする。
【方法】
 新潟県公立中学校1年生28名を対象に,「食生活を考える」の単元において話し合い活動を取り入れた授業を5時間行った。(1)授業初めに授業者と学習者が目標を共有し,終了前に振り返りシートの記述を行い,その記述からカテゴリー分けを行い検証した。(2)学習者が生活課題について話し合ったことをポスターにまとめて発表を行った。その後,アドバイス等を記入した付箋をポスターに添付し相互評価を行わせた。その時の話し合いについて,ICRに記録した会話を基にその意識について分析した。(3)話し合い前と相互評価後と授業1か月後に生活意識に関するアンケート調査を4件法で行い,生活改善意識の変化を分析した。
【結果と考察】
 振り返りシートの記述からは,話し合い活動により自分の生活課題を意識し授業の中から新しい知識を吸収しようとする記述が見られた。また,話し合い活動において生活課題を自分の問題とする場面が見られた。さらに,アンケートから生活に関する関心・生活課題・生活改善意識の変化について調査したところ,話し合い活動をして課題を共有したことにより関心・生活課題・生活改善意識は上昇するが,時間が経過しても関心・生活課題と比較して生活改善意識が下がりにくいことが明らかになった。これは,学習者が他の学習者の生活経験を話し合うことや学習者間で相互評価を共有する過程で,生活課題を想起できたことや,授業を通して生活に必要な様々な知識を理解しようとする意識が高まったことによると考えられる。そして,向上した生活改善意識は日常生活で常に意識化されることで定着し,時間が経過しても下がりにくくなったと考える。このことから,家庭科の特性を生かし,目標に基づいた話し合い活動と適切な評価を取り入れた授業デザインを構想・実践し,継続していくことが重要であると考える。

著者関連情報
© 2013 日本家庭科教育学会
前の記事 次の記事
feedback
Top