日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第56回大会・2013例会
セッションID: A1-5
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56回大会:口頭発表
言語活動の充実に関する中学校家庭科の現状と課題
小集団学習による献立作成に注目して
*小林 陽子松尾 優貴
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抄録

1 目的
  PISA調査の学力低下問題や子どもたちのコミュニケーション能力の実態から、平成20年告示「中学校学習指導要領」では、国語科での言語活動を核としながら、各教科において「言語活動の充実」が求められた。本研究では、小集団学習による献立作成における生徒の言語活動の実態から、中学校家庭科の学習目標を達成するにあたり、言語活動の充実を取り入れるにはどのような課題があるのかを検討したい。
2 研究方法 
  本研究では調査1と調査2を行い、その結果を総合的に分析した。
(1)調査1 家庭科についての意識調査
 対象者を群馬県I市内の公立中学校に在籍する1年生212名(男子97名、女子115名)とし、質問紙調査を行った。項目や問題は「ぐんまの子どもの基礎・基本習得状況調査」(2011)を参考に作成した。
(2)調査2 小集団による献立作成中の発話についての実態調査
 先に示した対象者から、19班(男子33名、女子45名)を選出し、班の机上にボイスレコーダーを置き会話を記録した。逐語記録を作成し、カテゴリー分析をした。迎(2005)の先行研究を参考に発話を16項目の内容に分類した。本発表では家庭科における言語活動の観点を重視し、「肯定」「否定」「説明」「質問」「提案」「気づき」「雑談」の7項目を抽出し、分析対象にした。なお、調査期間は調査1・2ともに2012年10月である。
3 結果
  調査1の結果から、家庭科が好きな生徒は68%おり、家庭科の学習に意欲的であった。また、半数の生徒が献立を作成することに自信がない。さらに、8%(16名)の生徒が自分や相手の考えを言ったり聞いたりすることを大切だと思わないと感じていることは、注目に値する。知識を問う問題では、9点満点中全問正解の生徒は全体の39%であり、4点以下の生徒は全体の10%(23名)であった。大半の生徒が今までの学習内容を理解していることが分かった。 
 調査2の結果は、全発話回数は7926回で、1人あたりの発話数は101回であった。ただし、分析対象を7項目にしたため、分析対象となる発話数は4156回である。以下に献立作成学習時にみられた生徒の実態と言語活動の課題について述べたい。
(1)基礎的基本的な知識の定着
  9点満点の知識を問う問題で、高得点の生徒ほど発話数が多い(p<0.001)。また、発話内容別回数をみても、高得点の生徒は低得点の生徒と比べて有意な差が認められた。
(2)学習に対する自信 
 「1食分の献立を考えることができますか」という問いに対して、「できる」と思っている生徒を「自信あり生徒」、「できない」と思っている生徒を「自信なし生徒」とした。発話回数の平均は「自信あり生徒」の方が「自信なし生徒」よりも多かった(p<0.05)。先の知識を問う問題との有意差は認められなかった。
(3)小集団学習の進め方 
  献立を決める際に、全19班中9班は栄養素や食品群について考えながら話し合いを行っていた。それ以外の10班は話し合いをせずにジャンケンや多数決、人任せで決めていた。すなわち、多くのグループが話し合う過程で献立選択の理由を説明したり、考えたりしていなかった。また、話し合いをせず献立を決める班は「雑談」が有意に多い(p<0.05)。
(4)マナーや傾聴の必要性 
 自分や相手の考えを言ったり聞いたりすることを大切だと思わないと感じている生徒は、大切だと思う生徒より「提案」平均回数が少なかった(p<0.01)。逆に、「雑談」平均回数は多かった(p<0.05)。

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