抄録
【目的】
これまでに各国の日本人学校の家庭科教育の現状について報告をしてきた。国により教育環境が異なり、また同じ国の中でも学校規模により教育事情に特徴があった。本研究では、ドイツのヘッセン州とバイエルン州に開校されている日本人学校で学ぶ児童・生徒の家庭生活の実態から海外で生活する上での問題点を探り、家庭科学習の経験が在外で生活する児童・生徒にとって役に立つ学習となりうる可能性を追求することを目的とした。また、今後の家庭科指導に対する課題等を検討した。
【方法】
研究方法は次の3つのアプローチにより遂行した。
1)2012年9月にドイツに設置されているフランクフルト日本人国際学校とミュンヘン日本人国際学校を訪問した。そして2校の家庭科室等の施設・設備の設置状況を見聞した。
2)家庭科の授業を参観し、さらに家庭科教員に日本人学校における家庭科指導の現状についてヒヤリングを行った。
3)小学部第5・6学年、中学部第1~3学年の児童・生徒176名を対象にドイツにおける家庭生活の現状や家庭科について、質問紙調査を実施した。調査期間は2012年9~10月、調査の概要はドイツでの日常生活の評価、家庭科学習に対する意識、家庭科観などである。
【結果及び考察】
1)フランクフルト日本人国際学校及びミュンヘン日本人国際学校は中規模校で、静かな住宅街に佇んでいる。家庭科指導をする上で必要な家庭科の施設・設備は、比較的整備されていた。特に、ミュンヘン日本人国際学校の調理室は、小・中学生が使用するためには十分すぎると思われるほど整備されていた。また、校舎の屋上にソーラーパネルが設置され、環境に配慮されていた。
2)前者は家庭科を専門としない派遣教員が兼任しており、後者は現地採用の10年の経験を有する教員が指導していた。例えば、家庭科の授業では、自己の朝食を想起させ、日本の食料自給率を考えさせる授業が行われていた。海外にいながら日本での生活をふりかえることにより、ドイツでの生活を改善していくことをめざしたり、絶えず日本での生活を回想させながら海外生活を送るよう示唆していた。また、現地料理を扱ったり、地域の環境整備をするなど、現地理解教育を家庭科の授業に取り入れていた。
3)ドイツで家事の手伝いをしているかを3件法で尋ねたところ、「食事のしたく」や「後かたづけ」は約半数が「よくする」と回答していた。しかし、「ボタン付け」や「洗濯」は1割弱の児童・生徒しか「よくする」と回答していなかった。ほとんどの児童・生徒の家庭では、家庭内の仕事を手伝う人を雇用しておらず、東南アジアの日本人学校の児童・生徒の生活環境とは異なっていた。
4)ドイツでの生活では、7~8割が住生活や家族のつながりについて満足感を表明していた。そして3割が、ゴミの分類やドイツの環境保護などについて、ドイツの生活を活用・参考にしたいと述べていた。しかし、ドイツで生活したことを家庭科の学習に役立たせようという意識は高くはなかった。
5)家庭科をどのようにとらえているか、12項目から複数回答させたところ、「生活に関連の深い教科である(80.9%)」「男女ともに学習する必要がある(79.2%)」「毎日の生活に役立つ(77.5%)」「生活に必要な技術の学習をする教科である(76.3%)」と回答した。また、中学部の生徒に家庭科学習についてどのように感じているかを11項目から複数回答させた。その結果、「調理実習が楽しい(86.2%)」「授業が将来役立つ(53.8%)」「授業が楽しい(42.5%)」「生活に役立つ内容が多い(42.5%)」をあげていた。
今後の課題として、グローバルな視点から生活を見つめることにより多様な考え方ができることから、海外生活経験を有効に活用した家庭科指導を模索していくことが必要である。