日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第56回大会・2013例会
セッションID: A2-1
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56回大会:口頭発表
「1食分の食事を調理し,整える」学習指導への課題
-小学生,大学生を対象にした調査から-
*渡瀬 典子
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抄録

【目的】家族構成,家庭のライフスタイルの変化に伴い,安価で少人数にも対応した半調理品やレトルト,冷凍食品の多様化,食の外部化が近年さらに進んでいる。これらの変化は,家庭にある調理器具の扱いにも影響を与え,既に80年代には「りんごの皮が適切にむける児童は28.6%」(文部省1984)との指摘もあった。1985(昭和60)年に家庭科教育学会東北地区会が実施した「家庭生活技術の実技調査(調理技能)」の手法を用い,当時の小学生と現在の小学生が食材や調理器具をどのように扱い,食事を整えることができるかという「調理技術力」と「献立作成力」について検討した結果,1985年の児童と比べ,食材使用種類の増加や味付け,盛り付けの仕方に工夫が認められたものの,依然「包丁による皮むき」,「ガスレンジの使い方」に不安が見られること,生鮮食品の扱い・可食部の見極め,調理に必要な食材量のイメージ形成が課題として抽出された(渡瀬他2010)。そこで本報告では,教員養成課程で小学校教員の免許取得を希望する大学生に対し,先行研究で実施した「1人分の昼ごはん」の考案,調理,自己評価を実施し,大学生が小学生と比べて伸びた/伸びなかった力について明らかにする。また,小学校家庭科で扱う調理技術の「自己評価」と「小学生への調理指導の不安」との比較から,教員養成における「調理技術力」,「献立作成力」育成の課題を検討する。【方法】調査1~3は小学校免許取得希望の大学3,4年生,大学院生を対象に2011年7月に実施した(調査1:食事記録調査34名,調査2:質問紙調査34名,調査3:「1人分の昼ごはん(献立作成,調理,自己評価)」47名)。調査4は小学校家庭科の教材として扱われることが多い「温野菜サラダ」「卵料理」の調理実技調査を調査1~3とは別集団の大学3,4年生と大学院生28名を対象に2012年7月に実施した。なお,調査3では必ず使用する指定食材3品目(卵,ほうれん草,じゃがいも)を設定し,そのほか自由選択食材13品目,調味料13品目を選んで必要なものが使用できるように設置した。【結果および考察】「国民健康・栄養調査」によれば,大学生の年代が含まれる20歳代の食習慣が他年代と比べて崩れやすい傾向にあることが明らかになっている。調査1から対象者の食生活状況を見ると,一人暮らしの学生の「朝食の欠食率の高さ」が目立った。また,1日当たりの料理の品数も平均6品目程度で複数の料理で構成された「食事を整える」ことに意識が向きにくい状況だった。調査2では調査対象者の9割は「調理が好き」と回答していたが,「料理にあわせて味を付ける」ことに自信があるのは2割のみだった。この結果は,調査1の調理場面で味見をせず調理した結果,味付けがうまくできず自己評価を低くつけた学生の存在にも現れている。以上のことから,調査対象者は味をみる行動実践が定着していないことがうかがわれた。調査3,4の調理では,小学生を対象にした先行研究と同じく盛り付けに工夫がなされていたが,野菜の可食部の見極めにやや課題が見られ,調理に必要な食材量の把握には個人差があった。また,6割が「バランスがとれた献立作成ができた」と自己評価し,「バランスがとれている」イメージとして「(様々な)栄養素が揃っている」「主食・主菜・副菜・汁物がある」「野菜が入っている」ことを挙げていた。調査対象者は「ご飯を炊く」等,日常的な調理技術は自分に身についていると自己評価していたが,これらを授業で「指導する」のが「全く不安でない」という回答は極めて少ない。とくに包丁の扱い,計量方法の指導に不安を感じており,自分が「できる」という自己認識と授業場面で指導することに意識の面で大きな隔たりがあることが明らかとなった。

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© 2013 日本家庭科教育学会
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