抄録
1.研究目的
小学校家庭科の衣生活学習では,児童は衣生活の営みを,自分はどのような衣服を着るのか,具体的な着方の学習をとおして理解を進める.快適な着方を選択するために,人が衣服を着る目的と衣服のもつ機能を理解し,ESD(持続可能性教育)の視点をもって児童が自分の衣服の着方を科学的に考える内容が必要である.教科書の本文には,衣服の着方の記述はなく,イラストが示されている.衣服を選択するための判断材料の一つに,衣服に用いられる布に必要な基本的な性能がある.これは,強さ・耐久性に関する性能,形態保持性能,保健衛生的性能,美しさに関する性能の4つである.このうち,教科書(東京書籍,開隆堂,平成24年発行)には,強さ・耐久性に関する性能として伸度,保健衛生的性能として保温性,通気性,吸湿性,吸水性,透湿性などが示されているが,実験方法や実験結果の記述はない.児童が自分と衣服との関係を,実験によって,現象から理論や法則を導く考え方や方法を獲得しなければならない.本研究では,児童の理解を助けるために,衣服の透湿性を調べる実験を開発し,この実験から理論・法則を導くことができるのか明らかにしたい.
2.透湿性試験
布の水分移動特性として,透湿性と吸湿性,吸水性,乾燥性,防水性がある.吸湿性は組成繊維の化学構造に依存するが,布の織り方や仕上げ加工によっても左右される.吸水性・乾燥性については,小学校の実験教材を開発し報告した(1).透湿性は,体表面から発散される水蒸気は安静時で約15g/ m2・h,運動時や高温時では100g/ m2・hに達する.これらの水分が衣服外に十分拡散されないと不快感を生じる.布の両側で湿度差がある場合,湿度の高い側から低い側へ水蒸気が移動する.この性質を透湿性という(2).繊維製品の透湿度はJIS L 1099で4種類が規定されており(3),試薬が不要で安全に行えるA-2法(ウォーター法)をもとに,透湿カップに入れられた水の蒸発による質量減少から評価する簡略法を開発した.温湿度をできるだけ一定にし,初期質量Woを天びんで測定する.一定時間後に質量Wtを測定する.試験片を覆わないブランク(Wo2,Wt2)も同様に測定し,結果を次式で計算する.透湿率%={(Wo-Wt)/(Wo2-Wt2)}×100.試料布はすべて布の厚さ,平面重,糸密度,充填率を測定した.
3.結果
ポリエステル100%のランニングシャツや体操服の透湿率70-84%,綿100%のニットや制服シャツ(綿ブロード)の透湿率50-67%であった.前処理として試験布を乾燥した場合は,測定時の環境湿度40%, 60%, 70%による違いが小さく,未処理布では湿度による差が大きかった.親水性繊維を高湿度で測定する場合は,前処理が必要である.着用中には衣服の透湿と吸湿は同時に起こっているため,吸湿性についても調べ,繊維の種類や環境湿度の違いによる結果が得られた.実験結果より,綿(親水性繊維)では吸湿率が高く,透湿率はポリエステル(疎水性繊維)に比べて小さい.ポリエステル(疎水性繊維)は吸湿率が低く,透湿率が高い.特に環境湿度が低い場合の透湿率が大きいことが分かった.
4.実践に向けた課題
学校現場で前処理や湿度調整をすることが困難な場合を想定した実験も行った.実験結果は透湿性・吸湿性にかかわる理論どおりの結果が得られた.今後,得られた結果を一般化し,実験教材とするために,補充する内容は必要か検討する.小学校理科・社会の学びとの関連を整理し,衣服の着方の授業開発を進めることが課題である.
付記 本研究の一部は岡山大学教育学部渡部友紀子氏の卒業研究(平成24年度)を含む.
文献
1)越宗,篠原,日本家庭科教育学会第54回大会研究発表要旨集p.188-189,2011
2)石川『被服材料実験書』同文書院,p.125,平成8年
3)日本規格協会『JIS ハンドブック31繊維』p.860-862,2006