抄録
【目的】
子どもを取り巻く状況は、いじめ、不登校、児童虐待、校内暴力など複雑化、多様化している。また、現代は「飽食の時代」と言われ、飢えのない豊かな食生活を送ることができるが、栄養の偏り、不規則な食事、生活習慣病の増加、「個食」などが進み、問題点も多い。このような社会的背景などから、本研究では、中学生における心の健康と食生活と食に関する自己効力感の実態をテーマとし、食に対する意識や行動と心の健康状態との関わりを明らかにすることを目的とした。
【方法】
1)中学生の食生活と心の健康状態についての調査
食に関する自己効力感、食意識及び家族との関わり、心の健康状態の実態を把握するために調査を実施した。自己効力感という概念はBunduraによって示され、ある行動を起こす前に、その個人が感じる「遂行可能感」、自分自身がやりたいと思っていることの実現可能性に関する知識、自分にはこのようなことがここまでできるのだという考えのことと述べられている。自己効力感に影響を与える情報源として、「遂行行動の達成」「代理的経験」「言語的説得」「情緒的喚起」「帰属フィードバック」等がある。
調査対象は、埼玉県内公立中学校4校1~3学年生徒、計634名(男332名・女302名)で、各校の家庭科担当者が実施した。調査期間は2013年1~3月である。
2)授業実践
調査から明らかとなった実態をもとに、食に関する意識や意欲を高める工夫を授業に取り入れ、食に関する自己効力感の向上を目指した。実践は、「肉の調理をしよう」と「家族のために調理をしよう」の2つの題材である。調査をした4校のうちの1つであるA校で、2学年生徒を対象に2013年9~12月に行った。
実践1は、肉の調理の計画及び実習である。ここでは、季節に合った食材、順序を考えて片付けをしながら調理するなどを意識させて、授業を行った。 実践2は、献立作成である。栄養バランスのよい家族のための献立作成に関して、作成しやすいよう手立てを考え実践した。
【結果】
1)中学生の食生活と心の健康状態
「食に関する自己効力感」は、肯定的な回答は概ね高かったが「献立作成」「調理」に関する項目は、低い傾向にあり、特に男子は低い傾向であった。
「食意識及び家族との関わり」は、料理の意欲に関わる内容は低い傾向で、家族について不満が見られる回答がやや多い。
「心の健康状態」は、ネガティブな質問に対しては否定的な傾向が強く、ポジティブな質問に対しては、項目間の差が大きかった。
2)授業実践
実践1では、季節の食材の付け合せ見本と調理実習の流れの提示を「代理的経験」とし、実験群と対照群に分けて授業を行った。実験群は調理の動画(自作ビデオ)、対照群では調理の静止画(写真)を用い、手立ての違いによる学習効果を見た。授業後アンケートでは、全6項目で生徒の肯定的な回答が80%以上となった。また、実験群の方がより肯定的な回答が高く、『季節の食材』『調理をしながら片付け』『他の調理への意欲』で実験群の肯定的な回答が高かったことから、「代理的経験」として動画の活用が効果的と考えられた。
実践2では、先輩、クラスメイト、教師が作成したものを参考にする「代理的経験」、献立の家庭実践をする「遂行行動の達成」などと考え、生徒のコメントや記述内容、アンケート結果などから考察を行った。代理的経験、遂行行動の達成後の生徒の記述内容では、肯定的な内容がほとんどで、献立作成だけでなく、調理や家族との交流の大切さなどが書かれ、間接的だが生徒の心への影響を与えていたことが分かった。授業後アンケートからは、『献立作成への自信』が約80%と高い評価がみられ、自己効力感の高まりと捉えられる。しかし他の項目と比べると低く、より効果的な指導方法などの検討も必要である。
研究から食に関する自己効力感の向上が見られたが、実践校は1校であったため普遍化を目指した取り組みや授業改善を行いたい。また、食に関する自己効力感と心の健康との関わりも更に追究する必要がある。