抄録
【背景】明石市のユニバーサル社会づくりの取り組みの一環として、平成23年4月にUD拠点「ひなたぼっこ」が魚の棚東側の明石銀座に開設された。UD拠点「ひなたぼっこ」は障がいのあるかたが地域社会と接点を持ちながら、援助されるだけでなく拠点を通して社会に貢献できるコミュニティスペースとしての役割が期待されている。生徒たちは、「ひなたぼっこ」で販売するたこパンなどの商品開発の過程でキャラクターを提案した。さらに、キャラクター展開として、UD拠点「ひなたぼっこ」を紹介するためのデジタル絵本が誕生した。【問題の所在】「ボランティア」や「地域貢献」は、高校生に道徳的な価値判断を求めるより、仲間と一緒に活動することから得られる連帯感や他者からの感謝や賞賛といった関係性に由来する有用感などの高次の感情エネルギー(動機付けの源泉)が不可欠である。「道徳性」とは道徳的心情、道徳的判断力、道徳的実践意欲と態度などによって構成される人格的特性であり、慣習的態度、規範意識、生き方などを総合した資質・能力と定義される。この定義を踏まえて道徳教育の「構造化方式」を唱えた金井は、児童・生徒が体験や学習によって「なるほど自分にとっても、大切だ」「自分もそのような生き方をしたい」と心から納得したときにだけ価値が自覚でき、道徳性が身につくと述べている。教科書に掲載されている事例では、ボランティアの定義や意義は伝わらない。むしろ、ボランティア学習は、その言葉どおり「自発的」に生徒が「やれそうだ」「やってみたい」と実践的態度を育成することにある。さらに教科書で扱う「ユニバーサルデザイン」「まちづくり」などの幅広い概念は、知識が形骸化し「生きてはたらく知識」を前提とする実践的態度の育成に結びつきにくい。【目的】道徳性の知見を取り入れながら、「身近な事例をとおして、生徒はユニバーサルデザインに関する知識・理解を深め、まちづくりの担い手としての自覚を高め、地域社会の一員として具体的に何ができるかを考えることができる」という授業仮説のもと、ボランティアや地域貢献への動機付けを目的とした授業デザインを試みた。【方法】本研究では、高等学校における共通教科「家庭」科目「家庭総合」で「ユニバーサルデザインのまちづくり」を扱うにあたり、本校の特質をいかした題材としてUD拠点「ひなたぼっこ」のデジタル絵本を使用した授業モデルをミシェル(Mischl,W.)の道徳性理論から考察する。パーソナリティ心理学の権威であるミシェルは、道徳性を道徳的判断、行動や感情の側面から理解するのではなく、個人の状況との相互的な関係や認知的発達との相互性で理解することの必要性を述べた。考察では、応援ツールとしてのデジタル絵本をとおした生徒とUD拠点「ひなたぼっこ」との相互的関係を整理し、さらに、「身近な事例」として「デジタル絵本作り」を紹介した授業における生徒の認知的側面を整理した。【結果】「デジタル絵本作り」における生徒の道徳的行為の遂行を構成する要素(期待・主観的価値・自己調整体系)から得られる理論上の様相を明らかにし、生徒が能動的に学習に取り組み、継続しようとするのを支援する仕掛けとしての授業モデルができた。しかし、この授業モデルが生徒の「ユニバーサルデザイン」や「まちづくり」の学習に有効であると考えられる一方、UD拠点「ひなたぼっこ」の運営への参画を促し、生徒の提案によって活動内容を少しずつ更新していかなければ生徒を納得させる授業の有効性は減退する。このような参画型の活動は次にどうつなげていくか、考えながら協働し創造る。授業から新しい活動のアイディアを生起させることにより、UD拠点「ひなたぼっこ」の運営に参画できる可能性が見出された。以上のことから、応援ツールとしてのデジタル絵本は、このような参画型の活動を「授業」や「学校」の枠組みのなかで生徒達がUD拠点「ひなたぼっこ」と繋がり、更新することにより学年や年度を超えて繋がりの連鎖を生成し、生徒の道徳性が醸成されると考えられる。