日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第59回大会・2016例会
セッションID: 4-2
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2016例会:口頭発表
カナダの家庭科における多文化共生教育の実践
-中等教育学校教員のインタビューから-
*上野 顕子星野 洋美伊藤 葉子
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抄録

【目的】
文部科学省「日本語指導が必要な外国人児童生徒の受入れ状況等に関する調査(平成26 年度)」結果によると、2014 年度、日本語指導が必要な外国人児童生徒数は、29,198人と過去最高を記録している。こうした学校教育におけるグローバル化の中で、「衣食住の学習がアイデンティティの育成や異文化理解に繋がることから、多文化共生における家庭科の役割は大きい」(星野,2010,p.185)と考えられる。家庭科教育における生活文化を題材とした多文化共生の授業実践は行われつつあるが(星野,2015)、その実践例や留意点を手引き書としてまとめたものは見当たらない。そこで、日本における多文化共生の授業研究を行っていくには、日本よりも多様な文化を包含するカナダの家庭科教育から学べる点を見出すことができると考えた。こうしたことから、カナダの家庭科では、多様な文化背景をもつ生徒に対して、多文化共生をどのように教えているかを明らかにし、家庭科教育における多文化共生教育実践の手引き書作りの基礎資料とすることを本研究の目的とした。

【方法】
カナダの学校教育において、家庭科という教科を持たない州もある中、ブリテッシュ・コロンビア州(以下、BC州とする。)は、Home Economics(家庭科)という教科名を堅持している州である。そこで、このBC州の中等教育学校段階における家庭科の科目の1つであり、ほとんどの学校で開設している科目‘Foods and Nutrition’を担当する(していた)教員6名に対して、多様な文化背景をもつ生徒に対して、多文化共生をどのように教えるかについて、聞き取り調査を行った。

 【結果及び考察】
1.  国というより、地域や家庭での食文化に着目
まず、日本では、ごはんと味噌汁が日本の食文化の基本であると小学校から教えることを説明し、「教員として、生徒に、自分の国の食文化として、何を基本として教えているか」をたずねた。これに対し、いずれの教員からも「カナダは多文化国家である」ことが語られ、カナダの典型的食物と考えられているものはあるものの、それをカナダの食文化の基本として教えることはしていないということだった。
一方、各地域の気候風土の特徴から多くつくられ、よく食されるものを、その地域の食文化という捉え方で生徒たちに教えているということが複数の教員から示された。また、中には、生徒それぞれにとっての家庭料理の基本を挙げさせるというアプローチをとっている教員もいた。
このように、食文化の基本としては、国というより、地域や家庭での食文化に着目にさせていることが分かった。

2.複数の文化間で比較し、食物の意味とつながりを理解
「食の授業を通して、多文化な背景をもつ生徒に対して、多文化共生をどのように教えているか」については、各教員から、様々なアプローチにより多文化共生の視点で授業を展開していることが示された。
教員MEは、学期を通して、それぞれの食物は、もとはどこの食文化からきているか、その食物を食べる意味は何かを考えさせるという。例えば、世界各地で飲まれているお茶を取り上げ、生徒たちにお茶をめぐる食文化の違いに気づかせるとともに、お茶をめぐって世界の人々がいかにつながっているかにも着目させている。また、教員Rlは、香りを題材として、それぞれの食文化に特有の香りは何か、なぜそれがその食文化特有の香りとなっているのか、その意味を考えさせるというアプローチをとっている。教員MWは、ある食物を生徒たちに示すときに、他の食文化でそれと同じものがあるか、似たものがあるかを考えさせる学習を展開している。
このように、ある食物を題材に、その食物を複数の文化間で比較し違いを確認する一方で、その食物がもつ意味を理解するとともに、自分たちとのつながりに気づかせるアプローチをとっていることが分かった。

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© 2016 日本家庭科教育学会
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