抄録
1、目的
これまで筆者らは、高校生に対して必要と考えられる生活設計教育の指導内容について、検討を重ねてきた。その中で、人の一生で起こりうるリスクを考えることが、生活設計上効果的であることや、固定的な性別役割分担意識にとらわれない生き方を考えるための男女共同参画意識を育む教育の枠組みなどについて、提案を行ってきた。また、女子高校生は、生活設計をするにあたり、進路についての意識や希望するライフコースの影響を受けていることを明らかしてきた。
筆者らは藤田の提案する生活設計の3つの領域という考え方に従って研究を進めてきた(藤田,2001)。学習指導要領では、経済計画は消費生活と関連づけられているが、今回はリスク対策の1つとしての金銭資源に注目し、一連の生活設計の学習の中に位置づけることを試みた。(1)生活設計において、経済的な視点から人の一生を見つめること、(2)さまざまな金銭資源について理解を深めること、(3)自分の希望するライフスタイルのために必要な準備について考えることを目的として、授業を計画・実施した。
本研究ではその効果を検証し、今後の課題を検討することを目的とする。
2、方法
授業は、本校国際コミュニケーション科1年生1クラス(41名)で実施した。科目は家庭基礎、実施時期は2016年2月である。
「生涯の生活設計」の単元の指導計画は、(1)人生におけるリスクと生活資源の活用、(2)生活資源としての社会保障制度、(3)ライフコース別の家計シミュレーションの順で進め、その後本授業として(4)生活設計と金銭資源を実施した。単元のまとめとして、(5)男女共同参画社会について考える授業を実施した。
本授業の流れは以下の通りである。(1)人の一生で、多額の資金が必要となるライフイベントを考え、その金額を調べる。(2)資金の準備方法を考える。(3)預貯金、ローン、保険の特徴と、三者を組み合わせて準備する必要性を理解する。
授業実践後、生徒の振り返りの記述、定期考査の正答率などから、授業の効果を検討した。
3.結果
主なライフイベントにどのくらいのお金がかかるかという問には積極的に答える生徒が多く、高校生が興味を持って取り組める内容であると思われた。生徒の感想には「保険には多くの種類があることがわかった」、「自分にとって必要な保険を考えることが大事」、「貯金がいちばん」などが挙げられ、貯金と保険に対する関心が高まったことがうかがわれた。「保険が資金準備の方法だとは思っていなかった」という感想もあり、目標とした「さまざまな金銭資源について理解を深めること」については、効果があったと考えられる。
一方、定期考査の正答率をみると、金銭資源として「ローン」について正確に答えられた生徒が少ないことがわかった。
このように、ライフイベントから学習を始めることは、生徒が興味を持ちやすく、経済的な視点から人の一生を見つめさせることに効果があった。しかし、保険には多くの種類があり、高校生にとってはわかりにくいこと、特に社会保険との違いがわかりにくいこと、またローンについてよくないイメージが強いことも明らかになった。
今後の課題は、社会保険と私的な保険の関係を理解させるためにさらに指導法を工夫すること、そして限られた授業時間の中で、金銭資源の計画を生活設計の学習として位置付け、自分の希望するライフスタイルと関連させながら、各内容を統合し総合的に展開する方法をさらに検討することである。