抄録
【研究目的】
家族学習は扱いにくいと捉えている教師は少なくない。家族学習には各家庭の様々な事情が絡むこともその一因であろう。しかし、各家庭が多様であるからこそ、自分の家庭しか見えていない学習者に、それらの営みに触れ、家族関係に対する視野を広げる機会を家庭科授業において提供することが可能である。
そのためには、どの家庭にも共通する営みを学習対象としつつ、かつそこでの多様性を取り上げることが必要である。他方、家族の関係性は目に見えないものであり、家族学習では、それを外部化(顕在化)させることも重要である。
そこで本研究ではどの家庭でも行われている「買い物」という営みに費やす時間に着目した。そしてその時間を“誰のために”費やしているのか意識化させ、そこでの関わり方の相違に目を向けさせることで、学習者が家族との関係性を見つめ直し、家族にどのように関わっていけばよいか考えていくことのできる授業を構想するとともに、その検証を目的とした。
【研究方法】
1. 題材「買い物時間から家族を考える」(1時間)の授業を以下の視点から構想した。
<買い物時間への着目> 学習者が“誰のために”買い物をして、そこにどれほどの時間を費やしているのか、家族の買い物の実態と照らしながら把握することによって家族との関係性に目を向ける。
< 家族の生活時間に照らした自分の時間のふり返り> 自分の生活時間を家族の生活時間に照らして捉え、その比較を通して家族とのかかわりを考えられるようにする。
< 自分の家庭に根ざした改善> 各家庭で自分が実際に行っている、あるいは家族によって行われている家事を見つめ直すことで、家族とのかかわりを意識しつつ、家事全般への各自の現実に即した改善方法を考えられるようにする。
2. 授業は2015年9月に、小学校4年生27名(男子12名女子15名)を対象として実施した。授業分析にあたっては、ビデオ録画をもとにした発話内容の分析と学習者がワークシートに記入した内容の分析を併せて行った。
【結果及び考察】
1. 学習者は、まず自分の買い物の内容及び時間をワークシートに書き出し把握した上で、家族の買い物時間がどのようになっているのか、特にそれが”誰のために”費やした時間であるかについて、他者とともに目を向けることができていた。
2. その後、学習者は再度、自分の買い物が”誰のため”であったのか、先にワークシートに書き出した買い物を青丸(自分のため)と赤丸(家族のため)を付けてチェックした。それによって、学習者は「赤丸は何も無い!」などと発話しながら、“家族は自分のために時間を費やしている”のに対して、“自分は家族のためにほとんど時間を割いていない”実態を具体的に把握し、その関係性を実感していた。
3. 買い物を切り口にしながら、学習者は家事全般に視野を広げ、単に”家族の大変さ”に言及するだけでなく、半数以上の学習者は家族における自分の位置を相対化して捉えることができた。さらにそれをもとに、家族とのかかわりを意識しつつ、自分の今後の家事分担について、その内容や頻度の見直しを積極的に行うことができていた。