抄録
【目的】わが国においては、戦後の再出発後すぐより家政学と家庭科教育が別々の道を歩むという両方の学問にとってある意味不幸な歴史を辿ってきた。そのため、家庭科教育の背景学問として家政学があるとされながらも、その関係については明確な検討をされてきていない。そこで、今後双方の学問体系が相乗効果を発揮するために、どのような方法があるか、そのモデルを提起したい。
【方法】(1)家政学そのものの成立に大きな影響を与え続けてきたのは、アメリカ家政学である。そのアメリカ家政学について、80年代までのモデル化を行ったマージョリー・イーストの『家政学の過去・現在・未来』に登場する4つのモデルを基本にして、アメリカでの歴史を踏まえてわが国の現在と未来を考える。(2)その際、クリティカル・リアリズム(以下CR)の発想をてがかりに家政学のモデルとわが国の家庭科教育をニュージーランドのテ・ファリキを模して交差させる。(3)さらに、家政学のモデルの一つとして挙げられるエコロジーについて、そのコンセプトの深化を検討する。(4)その先に新たな体系化の提案を行う。
【結果】(1)マージョリー・イーストは、アメリカの高等学校・大学で家庭科教育・家政学教育に従事された後、1958年から1980年までペンシルバニア州立大学家政学部家庭科教育科の課長を務め、その間、アメリカ家政学会の会長を務めるなど、全米の家政学の発展に寄与した人物である。彼女が、4つのモデルとして挙げたものの原理とその後の展開について、整理した。4つのモデルとは、アリストテレス(家庭管理)モデル、レークプラシッド(エコロジー)モデル、デューイ(手技教育)モデル、女性の役割モデルの4つである。このモデルを日本の家庭科教育と家政学に当てはめて考えることで、原理的にどうつなげていけるかを検討した。 (2)次に、クリティカル・リアリズムを用いてこれらの関係を深める方策を探った。CRには、聞きなれない用語がたくさんあるが、その意味内容さえ理解できれば、世界存在並びにその中の人間の位置についての見方がクリアになり、誰でも自らの思考を整理し研究戦略や研究方法の指針として応用できるところが魅力となっている。その手法を用いたNZのテ・ファリキは、幼児教育において、マオリの文化と西欧文化を融合させることに成功しているが、ここでもその発想をヒントに家庭科教育と家政学を紡いでみたい。 (3)エコロジーの考え方も多重的であり、アルネ・ネス、ジョージ・セッションズらによる交通整理の結果、エプロン・ダイアグラムと8つの基本原則が編み出されている。ここでも応用してみたい。 (4)これらの結果として、今までの家政学と家庭科教育学をお互いに強固にするためのモデルを提示する。(具体的には当日資料配布)
参考文献 ・マージョリー・イースト 村山淑子訳『家政学の過去・現在・未来』家政教育社 1991 ・(一社)日本家政学会家政学原論部会訳『家政学未来への挑戦 全米スコッツデイル会議におけるホームエコノミストの選択』建帛社 2002 ・セイラ・ステイジ ヴァージニア・B・ヴィンセンティ 倉元綾子監訳『家政学再考 アメリカ合衆国における女性と専門職の歴史』日本文芸社 2002 ・バース・ダナーマーク、マッツ・エクストローム、リセロッテ・ヤコブセン、ジャン・Ch.カールソン 佐藤春吉監訳『社会を説明するー批判的実在論による社会科学論ー』ナカニシヤ書店 2015 ・アラン・ドレングソン井上有一『ディープ・エコロジー生き方から考える環境の思想』昭和堂2001