抄録
【目的】高等学校家庭科の学習では、生徒が自分の生活と結びつけて考えることで、学んだ知識をより深く理解し、実践的にとらえることができる。そのためには教師が一方的に知識を伝達する授業ではなく 、教師と生徒の対話の生成により、生徒が思考を深める授業をすることが必要である。発表者は、高校家庭科教師が生徒の応答を「聴く」ことから行う、教師の瞬時の判断による発話には、対話を生成する発話である場合とそうでない場合があることを明らかにした(1)。家庭科教育における授業研究についての先行研究は、多くが教育内容・教育方法等に関する課題を設定したもので、子どもや教師の視点から授業をとらえた研究は十分ではない。本研究では、授業における生徒と教師の対話の生成要因と対話を生成する教師の発話の種類ついて、生徒への質問紙調査より明らかにする。
【方法】2015年7月から8月にかけて、千葉県の高等学校2年生273名(男子125名 女子148名)を対象に質問紙調査を行った。質問紙調査の内容は 、(1)家庭科は好きか(2)生徒自身が実施した「食生活調査」の結果について①「栄養のバランスがよくないと思いました」と発表したことに対して、②「特にありませんでした」と発表したことに対して、教師の応答を6例示し、その後の会話を「続けたくない(1点)」「どちらかというと続けたくない(2点)」「どちらでもない(3点)」「どちらかというと続けたい(4点)」「続けたい(5点)」の5択とし得点化した。
【結果・考察】1.教師の応答に対して会話を続けたいと考える要因として、①家庭科が好きか②男女の違い、に着目しt検定を行った。①について12項目中10項目について「とても好き」のほうが平均値が高く、有意差(p<.0.05)が見られたことより、家庭科に対して好意的であるほど会話を続けたいと考えると解釈できる。また、②については、12項目中6項目で男子のほうが平均値が高く、有意差(p<.0.05)が見られたことより、男子のほうが会話を続ける意志が高いことが解釈できる。2.家庭科が「とても好き」「どちらかというと好き」と答えた生徒は62%で半数以上の生徒が家庭科の学習を好意的にとらえていた。3.①②の教師の発話例について生徒が会話を「続けたくない」「どちらかというと続けたくない」と回答した割合は、①「栄養のバランスがよくないと思いました。」と発表したことに対して「なるほど、バランスが良くないと思ったんですね。じゃあなぜそう思ったのですか?」について合わせて23%と最も少なかった。一方「はい、具体的にどのような栄養素や分量などが過不足なのでしょうか。理想の栄養素量については以前勉強しましたがそれに沿って栄養素名や分量などを挙げてみてください。」について59.3%と最も多かった。また②「特にありませんでした」と発表したことに対して「バランスがよかったのですね。食事は誰が作ったのですか。」については合わせて18%と最も少なかった。一方「問題がないというのは摂取量が目安通りということですか?そんな理想の食生活をぜひ発表して。」について合わせて53.4%と最も多かった。教師の発話の内容が「復唱」+「正当化の要請」(主張内容に対して正当化する理由を求める)「受容」+「拡張の要請」(自己の主張に別の内容を付け加えて述べることを求める)であれば生徒は会話を続けたいと感じ、「統合の要請」(生徒の主張を理解し、共通基盤の観点から説明し直すことを要請する)の場合は会話を続けたいと感じないことが明らかになった。生徒の発話を促すために、教師は生徒の発話を「受容」しさらに「正当化の要請」や「拡張の要請」を用いることが有効であることが示唆された。授業における生徒の発話を促すために、教師の発話を改善する研修プログラムの開発が今後の課題である。
【引用文献】(1)若月温美(2015)日本家庭科教育学会第58回大会研究発表要旨集P104-105