抄録
【目的】
近年、学校における安全教育の充実が求められている。特に家庭科は、調理実習や被服実習、さらに児童・生徒の活動を伴う体験的学習など、安全・衛生面に配慮を要する場面が多いことから、家庭科を担当する教師には危険予測・回避能力が求められる。しかし、その多くは個人の指導経験の中で身に付けている状況にあると予想され、特に新規採用教員や小学校で初めて家庭科授業を担当する教師からは、不安や負担の声が聞かれる。そこで、より安全な家庭科授業のあり方や家庭科の授業を担当する教師への支援を探求するための基礎資料として、家庭科における安全指導の現状を把握することを目的とした調査を行った。本報告では、小・中学校家庭科の調理実習に関連した子どもの危険状況と教師の安全指導の実態について報告する。
【方法】
2015年9月に、全国小学校家庭科教育研究会地方理事63名と全日本中学校技術・家庭科研究会事務局長49名に、熱心に家庭科授業に取り組んでおられる教師の推薦を依頼した。推薦された教師415名(小学校212名、中学校203名)に対して、2015年10月から12月にかけて郵送法による質問紙調査を実施した。有効回収数は302名(有効回収率72.8%)で、その内訳は小学校177名(83.5%)、中学校125名(61.6%)であった。調査項目は、教師の基本属性(教師歴、家庭科教員免許の有無など)のほか、授業場面における具体的な危険状況、安全指導の徹底意識、有効な指導方法である。
【結果】
本調査対象の教師は、7割近くが20年以上の教師歴を持っていた。中学校教師の家庭科授業経験年数は教師歴と同程度であったのに対し、小学校教師の経験年数は短い傾向にあったが、そのうち半数近くは10年以上の経験年数を有していた。
子どもがけがをしたことやヒヤリハット事例として、調理実習場面ではやけどや切り傷が多く挙げられた。調理実習の特性として、火や刃物(包丁、ピーラー)を使う場面や、食中毒につながりかねない子どもの行動がヒヤリハット事例として多く、また調理施設そのものの、あるいは管理面の問題から生じる衛生上の困難として、過剰な湿気の発生や水道のさび、理科室と併用であること、後片付けが不十分であったことなどがあった。
安全に調理実習を行うための留意事項を、教科書記述を参考に16項目設定してその徹底の程度を尋ねたところ、「徹底できている」と答えた割合は「野菜などは丁寧に洗う」「食材を切る時の包丁の使い方に留意する」「包丁を不安定な場所に置かない」「爪を短く切り、手を洗ってから調理する」の項目で相対的に低かったものの、「少し徹底できている」まで含めるとほとんどの項目で9割程度が徹底できていると答えていた。基本的な指導は徹底していても、思いがけないけがや危ない状況が生じており、実習時の安全確保の難しさがあると考えられる。 調理実習時の安全・衛生面での指導上の工夫で有効であった方法を自由記述により尋ねたところ、実習環境の整備(調理器具の収納状況を写真で示す、チェック用の用具カードを作成する)、ルール作り(指示を出すときは作業などを絶対にさせない)、刃物使用時の工夫(切る作業が終わればすぐに回収する)、やけどの防止(鍋のふたは「盾のように持って」開けることを指示する)、調理器具等の管理法(調理台には保管しない、用途別に色が違う布きんを準備する)、子どもへの指導法(実際に起きた事例を話す、どうして危ないのかを考える学習を取り入れる)、教師間の連携や支援(家庭科室の使い方について共通理解を図る、クラスを分けて少人数で実習を行う)など、多くの細かいノウハウが挙げられていた。
調理実習を安全に行うためには、これらの情報を授業担当者で共有するとともに、調理実習における危険は施設設備にも由来することから、行政や管理職を含めた学校全体でも共有を図り、授業環境を整備することが望まれる。