日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第59回大会・2016例会
セッションID: P17
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第59回大会:ポスター発表
小・中学校家庭科の被服実習における安全教育の実態
*伊藤 圭子山本 奈美
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抄録



【目的】
  家庭科には被服実習や調理実習など危険を伴う学習活動が多く含まれる。そのため、教員は安全面に配慮を要する場面において、留意事項を充分に指導していると推察される。しかし、日本スポーツ振興センターNAASHの学校事故事例検索データベースには家庭科授業での事故事例が挙げられ、保健室記録や授業観察記録にも家庭科授業で発生した事故事例や危険場面が挙げられている(吉原ら 2008)。このような事故や子どもたちの危険行為はどうして生じるのであろうか。このような危険行為を安全に関する内容でのつまずきと捉えるならば、その生起は内的要因と外的要因(学習要因、生活要因)によって生じている(小林・伊藤 2015)と考えられる。この要因を具体的に把握することによって、より安全な家庭科授業をめざした家庭科担当教員の支援の在り方を構築する示唆が得られるのではないかと考える。     
  そこで本報告は、家庭科授業の中でもつまずきが最も多い被服実習場面に焦点をあて、家庭科担当教員を対象とした調査によって、事故およびヒヤリ・ハット体験の実状および安全面における指導の実態を把握することを目的とする。

【方法】
全国小学校家庭科教育研究会地方理事63名と全日本中学校技術・家庭科研究会事務局長49名に、各都道府県で熱心に家庭科授業に取り組んでいる教員の推薦を2015年9月に依頼した。推薦された教員415名(小学校212名、中学校203名)に対して、2015年10月~12月に質問紙調査を郵送法により実施した。有効回収数は302名(有効回収率72.8%)で、その内訳は小学校177名(83.5%)、中学校125名(61.6%)であった。調査項目は、教員の基本属性(教師歴、家庭科教員免許の有無など)のほか、授業場面における具体的な危険状況、安全指導の徹底意識、有効な指導方法であった。

 【結果】
1.被服実習場面における事故体験およびヒヤリ・ハット体験は、「ミシンでのけが」が小学校(48.5%)、中学校(49.1%)と最も多かった。特に、ミシン針で指を指す事例が最も多くみられたが、その要因は多様であった。次いで、小学校では「手縫いでのけが(11.9%)」「アイロンでのやけど(10.7%)」が多く、中学校では「アイロンでのやけど(10.7%)」や「アイロンでものをこがす(10.7%)」が多く挙げられていた。

2.被服実習における留意事項を、家庭科担当教員が子どもたちに徹底できていると思うかを問うと、他項目よりも「(あまり)徹底できていない」と回答した者が多かった項目は「ミシンをかけている人に触らない、話しかけない」であった。一方で、この項目内容が原因で「ミシンでのけが」が生じた事例が多く挙げられていた。

3.被服実習において有効であった安全面での指導方法を自由記述で問うと、用具の管理方法(裁縫箱のふたの活用や使用ミシンの固定化等)や指導方法の工夫(手順カード・写真・DVDなどの活用、ペア学習、声かけの工夫等)などの指導の実際が具体的に挙げられていた。このような情報を教員間で共有することが、被服実習場面における危険回避に有効であると考えられる。

4.家庭科授業におけるヒヤリ・ハット要因として、児童生徒の生活経験の乏しさ(小学校31.2%、中学校30.2%)や危険予知の不足(小学校29.2%、中学校27.1%)、多様な子どもの存在(小学校17.9%、中学校21.1%)の順に多く挙げられていた。ミシンを共同で使う際に児童生徒の関わり合いから思いがけないけがが生じており、具体的な場面を想定してどのような危険があるかを考えさせる指導が必要であると考えられる。

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