霊長類研究 Supplement
第36回日本霊長類学会大会
セッションID: C09
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口頭発表
マカク属7種のゲノム解析による進化モデルの構築
長田 直樹松平 一成濱田 譲Malaivijitnond Suchinda
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抄録

マカク属のサルはアフリカ大陸の一部とユーラシア大陸の広い地域に生息しており,20以上の形態的に多様な種から構成されている.これまでにミトコンドリアゲノムや核遺伝子の解析によって系統関係が議論されてきたが,頻繁な種間交雑の結果として,複雑な系統関係をもっていることが知られている.とくに,いくつかの種では,ミトコンドリアゲノムから推定される系統関係と核遺伝子から推定される系統関係とが一致しない現象が報告されている.これらの不一致の要因を明らかにし,それぞれの種がたどってきた歴史を明らかにするために,われわれは,ニホンザル,タイワンザル,タイ産カニクイザル(fascicularis亜種およびaurea亜種)について新たに全ゲノム配列を決定し,合計7種からなる17個体の全ゲノム配列解析を行った.とくに,性特異的な移住様式に注目した解析を行うため,常染色体とX染色体のゲノムの系図について比較を行った. 本講演では,アカゲザル,ニホンザル,タイワンザルからなるmulatta群の起源と歴史を中心にその結果を発表する.これまでの研究で,ニホンザルおよびタイワンザルのミトコンドリアゲノムはインドのアカゲザルよりも中国のアカゲザルにより近縁であることが示されている.われわれは,ニホンザルおよびタイワンザルは,核ゲノムにおいては,アカゲザルがインド集団と中国集団が分かれるよりも古く分岐しているものの,インド集団よりも中国集団のゲノムにより近縁であるということを発見した.このことは,アカゲザルの祖先集団がインド集団と中国集団に分岐した後に,中国集団がニホンザル・タイワンザルの系統に関連した集団と交雑を起こしたことを示している.また,X染色体の解析により,中国産アカゲザルの祖先集団から雄特異的な移住が起こり,ゲノムの混合が起こったことも示唆された.

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© 2020 日本霊長類学会
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