芭蕉布は琉球時代から沖縄で使われていた夏向きの布であり, イトバショウの偽茎の繊維から作られる. この布はかつては庶民の野良着として日常生活に使われていたが, 現在は伝統工芸品として, 着尺用の高級な織地が製造されている. その繊維の抽出は, 職人の勘に頼るところが多く, また厳選された上質な材料が必要とされている.
本研究では, 伝統工芸品としての芭蕉布作製では質が悪く使われない材料から, 伝統法における工程を基にした非常に簡単な条件により, 芭蕉布繊維を抽出した. また, 琉球文化圏の市町村誌などからイトバショウ栽培や繊維抽出の条件を調べ, 本研究で使われた簡易抽出法について考察した.
簡易抽出された繊維については, 顕微鏡観察を行い, 職人が作製した糸の繊維と比較した. その結果, 簡易抽出繊維はよじれが多く, 職人の糸の繊維よりも太く伝統工芸で使われる繊維よりも質は低下していた. しかし, 質の悪い芭蕉布繊維でも一般の夏向きの衣料に使われていた事実があり, 製反時に工夫することで, 簡易抽出繊維が環境にやさしい新しい夏向きの素材開発に繋がる可能性があると考えられた.