2021 年 72 巻 6 号 p. 348-361
本研究では, 保護者支援の力量に影響を及ぼす要因を明らかにするために, 保育実践の過程で生じる経験に加えて, 親としての子育てという私的な経験の影響を要因として設定し, 検証した.
まず, 保育士の日常的な実践観察やインタビュー調査を踏まえて26種の保育相談支援技術を導出した先行研究を基に, 保護者支援の包括的な力量を測定する30項目4次元で構成される「保護者支援力尺度」を開発した.
次に, 作成した保護者支援力尺度を用いて, 「保育者効力感」「保育経験年数」に加えて, 保育士の私的な子育て経験を反映する要因として, 「親アイデンティティ」を設定し, 保護者支援力に影響を及ぼす因果モデルを仮定して検証した. その結果, 「親アイデンティティ」は「保育者効力感」に, 「保育者効力感」は「保護者支援力」にそれぞれ有意な影響を及ぼすことが示された. 親としての経験は保護者支援力に直結するのではなく, 子どもや保護者に対する理解を促して子どもの発達に寄与する自信 (保育者効力感) に繋がっていることが示唆された. また, 子どもの発達に尽力することが保護者支援になっているとの認識が示されており, 保育と保護者支援とが不可分であるという従来の知見を支持する結果が見出された.