2025 年 76 巻 3 号 p. 113-124
本稿は, 明治期の家事教育における室内装飾の項目を分析するとともに, 特に下田歌子の著書を取り上げてその内容を検討した. 下田を検討したのは, 他に比べて多くの紙幅を室内装飾の項目に割いていた上に独自の内容を有していたからである. 検討から明らかになったのは第一に, 明治期全体の検定済家事教科書を見るに, 家事教育全体の「室内装飾」の位置付けについて, その扱いは絶対なものではない上, 記述があったとしても翻訳家事教科書に比べると室内装飾に関する記述は大幅に削られ, さらに一般家政書と比べてみても室内装飾の内容が簡略にまとめられていることである. 第二に, 下田の『家政学』における「室内装飾」は, 美術教育に先んじた色彩論への着目や西洋式住居への適応の過程が見られる点で特徴的であったことである. 色の配合には科学的観点のほかに日本の伝統的価値観を反映し, 様式としては西洋式の扱いを増やしつつ和洋折衷な装飾を提案していた.