抄録
1) シューの成績(体積・底径・形状・焦色)は温度(B)即ち、小麦粉の煮え加減に左右されることが大きい。(B)が低温のものは澱粉粒の膨張が少く、従って、吸収されない水、即ち、自由水が多いので、ペーストの粘性係数が低く従って底面が広く、第2加熱によって水の蒸発が早く、膨らむのも早くなる。膨らむ速度が速いことは外壁(皮)がまだかたまっていない問に蒸気が発生しはじめるため、一般に皮の抵抗が弱く、体積は大きくなるが饅頭の様な形を作る傾向がある。これに反し、(B)が高温のものは澱粉の糊化がすすみ、従って自由水が少く、ペーストの粘性係数が高いため底面狭く、前者より水分の蒸発が遅くゆっくり膨化する。そのため皮がある程度かたまって後ふくれるので、その不規則な抵抗でむくむくしたいわゆるシューの形となるものと思われる。実験結果からみると第1表の如く、第1加熱10、20秒の場合、何れも(A)が95℃~105℃の間は試料の粘性係数は両者やや同じである。(A)95℃以下になると20秒加熱は10秒加熱の場合より粘性は大である。即ち低温部においては(A)が一定であれば粘性係数は加熱時間が長くなれば大となる。ことは予想される通りである。一方(A)が105℃以上になった場合は(A)が上るに従って粘性係数は大となるが操作は極めて困難となるため加熱時間の長短にかかわらず粘性係数はばらつぎが多く数字の再現性がない。即ち、高温部においては(A)が一定でも粘性係数は加熱時間に左右されないことになる。
2) 第1加熱が105℃を過ぎると、シューの成績はだんだん悪くなる。これは、水と油の混合物の加熱が105℃を過ぎるようになると、温度(B)も次第に高く80℃を超えるようになり、そのためグルテンの伸長性が小さくなるためであろうと思われる。
3) シューペーストの粘性はその操作過程の第1加熱の温度に大いに影響される。即ち、第1加熱が低温のものは柔かく、反対に高温のペースト程かたくなる。この粘性は小麦粉澱粉の糊化による粘性の増加とグルテンの不活性化による減少との相殺された結果と考えられる。軟らかすぎたペーストに小麦粉を加え、硬すぎたペーストに水を加えて粘性を調整することは、シューの外観形成には効果的であるが膨化には何の効果もない。換言すればシューペーストの粘性はシュー外観形成に対するペーストの一つの性格の目安を示すものであるけれども、粘性の調整のみを以てシューの成績を向上させようとすることは不可能である。
4) シューの焦色は第1加熱が低くなるに従って濃くなる。これも前に述べた様に、低温のもの程、自由水が多く蒸発が早いためであろう。焼き上り重量が第1加熱が低温のものほど小さいことは、このことを示している。