日本家政学会誌
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テラス付き公営住宅における住まい方およびアクセス方式に対する評価
鈴木 雅夫
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1991 年 42 巻 11 号 p. 973-977

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抄録

考察の結果を要約すると次のようになる.
(1) 調査の対象とした町営住宅は, 従来の標準設計によるものではなく, 高温多湿の気候条件の下で, 厳しい暑さに適応させるために, バルコニーの代わりにテラスを設け, 風通しと強い日射を和らげ, 接地性を確保しようとしたもので, 地域型設計とみなされる.
(2) テラス付き町営住宅は, 住戸へのアクセス方式で二つのタイプに分けられる.一つは, 北玄関型であるが住棟を雁行させている.もう一つは, 南に階段室を移しテラスからアクセスする南テラス型であり, 鹿児島では最初の事例である.
(3) 住戸へのアクセス方式の差異についての評価をみると, テラスの形と大きさについては, 「現状でよい」という比率は, 南テラス型の約79%に対して, 北玄関型は約68%である.テラス面積が南テラス型で3m2広いことが, 11ポイント差になってあらわれていると思われる.
階段位置が北か南かという点については, 「現状でよい」という比率は, 南テラス型の約85%に対して, 北玄関型は約81%であり, 両者に大きな差異はみられない.
住戸への入り方については, 「現状でよい」という比率は, 南テラス型の約29%に対して, 北玄関型は約71%である.南テラス型の住戸への入り方がよくないという理由は, 玄関が付いていないこと, 洗たく物が来客に見えることなどである.したがって, 南テラス型のアクセス方式そのものがよくないわけでなく, 玄関を付け, 洗たく物の干し場を区別すれば, 評価はよくなると思われる.
(4) アクセス方式からみた住まい方の差異を部屋の使われ方を通じた考察では, 南テラス型は, テラスから各部屋に直接入れるので, 家族と来客のアクセスと部屋の使われ方を区分できるという利点がある.これに対して北玄関型は玄関からD・Kを通り抜けて各部屋に入るのとは大きく異なっている.通路となるD・Kは, 部屋の安定性が損なわれやすい.
南テラス型の部屋の使われ方は, D・Kが食事室に, 押入付き和室が寝室に, 茶の間は家族の集まりと接客の部屋に, 洋室は寝室等に使われている.テラスアクセス方式の住戸平面では, テラスに面した2室のうち1室は接客に使えるような部屋とすることによって, 家族と来客のアクセスおよび部屋の使い分けが可能になる.しかし, 南テラス型は, テラスに面して洋室を配置したため, 接客室に使いにくく, さらに, 洗たく物を出入口から離して洋室に接した部分に干すため, いっそう, 洋室の接客利用を困難にし, 茶の間が多目的に使われるようになっている.
北玄関型の部屋の使われ方は, D・Kは食事室のほか家族の集まり部屋に, 押入付き和室は寝室のほか, 家族の集まりや接客の部屋に使われている.茶の間は, 寝室, 家族の集まりや接客の部屋など比率は高くないが多目的に使われている.北玄関型は, D・Kが通り抜けになるため, 安定した使われ方がされないと予想していたが, D・Kは朝・夕食とも食事室として, 高い比率で使われ, さらに家族の集まりにも使われている.食事のとり方をみると, 約30%は坐式であることから, D・Kの広さは通り抜けになってもじゃまにならずに十分間に合うためではないかと考えられる.
(5) 鹿児島県において, 地域型設計として考案されたテラス付き町営住宅ではあるが, この考え方は, 同じ亜熱帯地域に属する沖縄県の公営住宅の設計にとっても十分適用できるものであり, 問題点を改良すれば, テラスアクセス方式は有効な設計手法となりうると考える.

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