日本家政学会誌
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中京大都市圏における世帯構成の類型化, 移動要因, 居住水準の変化
住居移動による世帯構成の変化と高齢者の住生活課題 (第 1 報)
鈴木 博志宮崎 幸恵
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1997 年 48 巻 5 号 p. 415-426

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抄録

以上の分析結果は, 以下のごとく要約される.
(1) 近年, 高齢者世帯の移動が増加傾向にあり, とくに高齢者のみ世帯の移動の増加が著しい. この世帯の移動が増加する家族構成上の原因は, 単身, 夫婦のみの小規模世帯の移動の増加にある.
住居移動の形態は多様であるが, 移動前後の世帯構成は大きく 4 タイプに類型化され, さらに 10 タイプの家族移動型に類別できる. これを分析軸にして, 高齢者に特有な住居移動の発生メカニズムや居住課題を明らかにすることが可能となる.
(2) 近年では, 高齢者世帯移動のうち, 同居や別居を伴わない不変型の移動が増加しており, なかでも移動後に単身や夫婦のみの小規模高齢者世帯を形成する不変型 a1 の伸長が著しい. 別居型 a も同様の傾向にあるが, こうした変化は, 家族形態の視点から判断した場合, 移動後の住生活の安定性に欠ける小規模な高齢者世帯の増加を意味する.
以下, 高齢者世帯のなかでも, とくに住生活課題を多く抱える可能性が高い不変型 a1, 別居型 a の移動に注目して整理する.
(3) 高齢者世帯に関わる移動は, 家族移動型によってそれぞれ特徴的な階層的特性をもつ. 不変型 a1 は, 女性の世帯主が多いこと, 75歳以上の後期高齢者が約 3 割を占めること, 無職や低収入層が多いことに集約される. 別居型 a が, 不変型 a1 と階層的に相違する点は, 収入が相対的に高いことにある. 不変型 a1, 別居型 a とも, 体力の衰えや経済的能力の低下が進む年齢層であり, 日常生活におけるケアの必要性が高い.しかも, 単身や夫婦のみの高齢者世帯 (高齢者のみ世帯を多く含む) の移動であるため, 外部から何らかの住生活上の支援を要する状況に置かれている.
(4) 移動の契機となる主な移動理由は, 家族移動型別に異なる内容を示す. 不変型 a1 は, 住宅上と家族上の理由が多い. 住宅上では, 住宅の老朽化と立ち退き要求の比重が高く, とりわけ立ち退き要求は, その内容や程度によって深刻な事態に直面していた高齢者世帯の存在を推測させる. 家族上は, 家族との近接居住の比重が高い. 自立した生活を送りながら一方で家族とのきずなを強めたいとする居住立地志向の表れであり, 近年の不変型の移動の増加に寄与する要因の一つとみられる.
(5) 居住状況の変化に関しても, 家族移動型によってそれぞれ異なる傾向を示す. 不変型 a1 の特徴は, 前住宅から現住宅への変化で持家居住が減少していることにある. 移動後は, 公営住宅, 公団・公社への入居が多く, 公的住宅が高齢者の居住の安定性を確保するのに果たしている役割が大きいことを示唆する. 別居型 a も移動後は持家居住が減少しており, 公団・公社への入居がわずかに増加する. 不変型 a1, 別居型a とも, 住宅選択理由では買物・医療に便利など利便性の高い居住立地志向が強く, これは高齢者の住宅対策上重視すべき点である.
(6) 移動による居住状況の改善は, 家族移動型によって異なる. 不変型 a1 の移動後の居住水準の変化は, 住宅規模, 通勤時間, ローン・ 家賃とも低下する方向にあり, 必ずしも居住状況の改善が図られているわけではない. 移動の主要な理由が, 立ち退き要求や近接居住志向にあるため, 居住状況の改善が第二義的とされることに起因する. これは, 移動することによって, 住宅規模の向上や通勤時間の改善が図られている他の家族移動型とは基本的に異なる.

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