抄録
【目的】「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン」2014年度版により胃内視鏡検査は任意型および対策型胃がん検診に推奨されることになった。胃内視鏡検査時の観察の妨げとなる有泡性粘液を含む胃粘液をプロナーゼを用い除去することにより検査時間の短縮、見落としのない精度の高い検査が施行可能となる。われわれはプロナーゼの溶解に重曹の代わりにアルカリイオン水を用いた簡易前処置法を考案し、その基礎的ならびに臨床的有用性を報告した。今回は胃炎の有無、ピロリ菌の有無別に簡易前処置法の胃内視鏡検査への有用性を検討した。
【対象と方法】対象者は健康診断ならびに外来受診者のうち胃内視鏡検査を受けた686名中プロトンポンプ阻害薬、H2受容体拮抗薬を服用していない609名である。胃切除者は除外した。対象者をプロナーゼを含む簡易前処置を受けた処置群(404名)と受けていない対照群(205名)に分けた。胃粘液除去効果は有泡性粘液の程度により点数化した。
【結果】胃炎の有無による有泡性粘液の程度は対照群、処置群のいずれも慢性胃炎(過形成性胃炎、萎縮性胃炎を含む)では正常胃、表層性胃炎に比べ増加していた。なお、処置群の泡の程度は対象群に比べ軽度であった。ピロリ菌の有無別の検討では、ピロリ菌陽性者は陰性者に比べ慢性胃炎の頻度が高く、有泡性粘液も多い傾向にあった。また、ピロリ菌の有無にかかわらず処置群は対照群に比べ、有泡性粘液は少なく、処置群においてピロリ菌陰性者では陽性者に比べ有意に有泡性粘液が減少していた。
【結語】有泡性粘液は慢性胃炎やピロリ菌感染胃で増加しており、胃内視鏡検査の妨げになる可能性が示唆された。プロナーゼを用いた簡易前処置により有泡性粘液が効果的に除去され、内視鏡検査の観察能が向上するため、簡易前処置法は早期胃癌の発見に有用と考えられた。