抄録
高齢者の健康問題を考える時、疾患のみならず、心身機能の衰えを視野に入れる必要がある。そこには、体力や気力の低下という老いに伴う問題が存在している。これらの問題の重要性は、75歳以後の要介護の原因が、加齢に伴う衰弱などの疾患概念では捉えにくい問題が主因となってくることからも明らかである。日本老年医学会は、加齢に伴う衰えを「フレイル」と表現することを提唱し、その積極的な予防対策により自立障害に至る過程を遅らせる重要性を説いている。
フレイルの捉え方には大きく2つの考え方があり、加齢に伴う障害や生活機能障害、疾患などの蓄積を評価することでフレイルを捉える「障害蓄積モデル」と、加齢に伴う生体機能の低下により表出してくる症候を捉える「表現型モデル」がある。いずれの評価でも、将来の健康障害発生を予測することが可能であり、フレイルは高齢者の健康評価には不可欠な視点になっている。しかし、その評価方法は一つに定まっておらず、多数の評価方法が存在しているのが現状である。
フレイルの予防対策は、バランスの良い栄養摂取と運動習慣の確立というライフスタイルに関わる改善が主体である。栄養では、従来よりも積極的な蛋白質摂取が推奨されるようになっている。運動では、筋肉の衰えを改善しうるレジスタンス運動が推奨されるが、フレイル高齢者にとっては、歩行を含めた運動習慣の獲得が重要と思われる。
高齢者における自立障害の予防が、健康長寿社会には重要であり、フレイルという概念を取り入れることで、その実現に寄与しうることが期待されている。