2024 年 51 巻 6 号 p. 524-530
厚生労働省発表の、「令和元年国民健康・栄養調査」によると、2019年時点で20歳以上の糖尿病リスク者は2,251万人と推定されている。一方、日本糖尿病学会が示す「糖尿病治療の目標」は、「糖尿病のない人と変わらない寿命とQOL」にあり、合併症の発症・進展の阻止のみならず、高齢化などで増加する併存症の予防・管理に加え、スティグマ、社会的不利益、差別の除去への対応も重要とされている。
糖尿病は発症前の耐糖能異常の段階から心血管イベントリスクが上昇し、糖尿病発症早期からの良好な血糖管理は合併症の発症進展予防への寄与のみならず、認知症など併存症の発症リスクも低下すると報告されている。また、2型糖尿病の診断時点での膵β細胞機能は約50%低下しているとの報告から、膵β細胞機能が残存している発症早期からの治療介入はインスリン分泌能低下を軽減し将来の良好な血糖マネジメントの維持に繋がると考えられる。
2008年度から生活習慣病の予防・早期発見を目的とし、40歳以上75歳未満の被保険者・被扶養者を対象に特定健康診査・特定保健指導の実施が義務づけられ、生活習慣改善を含めた早期からの糖尿病治療を行うことにより重症化予防に努めている。しかしながら、糖代謝異常で受診勧奨を受けた者のうち医療機関の受診率は約35%との報告や、治療中断率が年8%程度との報告がある。背景には「糖尿病は無症状であることが多い」「合併症、併存症予防の意義についての啓蒙が不十分」「周囲に糖尿病の罹患が知れることに対する負のイメージ(スティグマ)」などが根底にあると推察される。
昨今、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬などの糖尿病治療薬の早期導入による合併症・併存症の発症や進展を抑制するエビデンスが構築されるとともに、CGM(Continuous Glucose Monitoring)などの先進機器を用いた質の良い血糖管理の実現が可能な時代となってきている。健診後の受診率が向上すれば合併症や併存症を予防できる可能性が高まり、ひいては健康寿命の延伸にもつながると期待される。
本稿では、糖尿病代謝内科医の視点から、糖尿病の早期治療介入や治療継続の重要性に加え、近年の糖尿病治療の進歩を中心に概説する。